「成長ホルモンから読み解く攻めのアンチエイジング」
2016.5.22
「成長ホルモンから読み解く攻めのアンチエイジング」
大友博之先生
○大友先生プロフィール
・慈恵医科大学卒業
・渋谷セントラルクリニック総院長
・医療コンサルティング会社CEO
・西洋医学的鍼治療普及協会理事
@AP渋谷道玄坂 渋東シネタワーGルーム
麻酔科で痛みについての研究を行っていたが、臨床をしていくうちに「運動をしてください」などアドバイスをして、注射をしたり、薬を処方したりという関係を続けていくということに疑問を感じていた。
運動すれば良くなるはずだが、運動をしないので良くならないという患者に対して、本当に運動をすれば良くなるのかということを確かめたいという気持ちからライフスタイルに対するアプローチをしてみたいと思うようになったことがアンチエイジングについて考えるようになったきっかけである。
○2016年の医療
2016年は医療が劇的に進歩する年になるのではないかと考えている。医療そのものの進歩だけではなく、政治、社会的にも大きな変革がある。
医療の面では、検査のIT化が進み、今まではドクターが問診で「夜寝れていますか?どれくらい運動していますか?」と訊いていたものが、スマートフォンを利用して、簡単に一日の中での心拍の変化や運動量、睡眠の質などのをモニターできるようになった。例えば、一日1キロ歩く習慣があるという人であっても、それが家からコンビニを行き来するだけということであれば、人と会って話したりといった社会との関わりはほとんどないということも見えてくる。
・ライフスタイル医療の重要性
今までは糖尿病であればインスリン注射をして、それをずっと続けていかなければならなかったものがこれからは膵臓を再生できるようになり、もう一度自分の体でインスリンを分泌できるようになる。
そうなると同じライフスタイルでは、再び糖尿病になってしまうため、ライフスタイルを変えていく必要が出てくる。
このようなアンチエイジングの医療ではライフスタイルの医療が非常に重要になり、この分野は医者が一番苦手な部分でもある。今まで3分診療で検査結果を見て、薬を出すというだけではなく、ライフスタイルに対してその人に必要なことをアドバイスをするといったアプローチが必要。
再生医療や免疫療法などの最先端療法は、注入された細胞が活かされるためには健康的な身体が重要である。
○生物・心理・社会的モデルに基づくアプローチ
・生物モデルからのアプローチ
身体の疲れ、身体を鍛えたい、デトックス(腸管、有害金属)、栄養失調(サプリメント)、美容
・心理、社会モデルからのアプローチ
癒し、デジタルデトックス(スマホ依存)、人とのつながり
ヨーロッパでは、このようなモデルに基づいたアプローチが盛んに行われており、スウェーデンでは、リゾート施設のようなところで自由に絵を描いたり、運動をしたり、人と話したりすることで自分のライフスタイルを取り戻すことができ、慢性痛が治ったり、肥満が解消したりといった効果を上げている。
この施設では、ほとんど薬を使わずにうつ症状を抱えていた人の80%の人が仕事に復帰できているという。これは日本ではまずあり得ない数字である。
痛みという一つの症状についても、単純に組織の損傷で起きているというだけではなく、様々なストレスのはけ口またはメッセージとして痛みを生じさせているということもある。
例として裁判をしている人の痛みは取れない。遺産相続で親戚と揉めている時には、そのストレスで痛みが生じていたり、増幅していることが多く、それが解消されない限り痛みは取れない。
そのような大きな背景を見ずに治療をしていると、より強い薬や治療法を選択するようになり、一層深みにはまり、治りが悪くなることが多い。
したがって患者さんと接する時には、患者さん本人が気づいていないけれどもしてほしいと思っていることにドクターが気づき、それを提案することができるかが重要であり、それが最も患者さんも腑に落ちるプランになる。
・メンタルヘルスの重要性
ライフスタイルの改善のためにはメンタルヘルス(コーチング)が重要であるが、日本では、精神科に行くことはハードルが高く、周りの人の目も気になってしまい、システムとしても成熟していないのが現状である。抗うつう状態が認められるケースの半数近くは治療を受けていない。
○成長ホルモンから読み解く攻めのアンチエイジング
・エイジング(老化)とは何か?
太った、代謝が落ちた、肌のコンディションが悪くなった、痛みが取れない、元気が無くなった(慢性疲労)、新しいことがしたくない
→アンチエイジングとはエイジングのプロセスを変える事
過去の自分と比べてどうなのか。
・世界のアンチエイジング
国民性、医療経済によってアンチエイジングに求める要件は異なる。
アメリカ:予防医学
ヨーロッパ:機能性医学、美容治療
日本:予防医学、美容治療
アジア:美容治療
アメリカは、狭心症になると治療費が約2000万円かかると言われるほど医療費が高いことから、アンチエイジングというとほとんどの人が予防医学と答える。ヨーロッパは、皆保険制度であるため、もっと美しく生きたいとか性的な機能に対して行うものというイメージを持っている。日本では、医者の認識は予防医学だが、一般の人の認識は若々しくいるということになっている傾向がある。
最終的な目標は、楽しく元気に生きれているということであり、入り口は何でもいい。痩せたいと思ってきた人が痩せたころには、元々持っていた腰痛や肩こりもなぜか無くなっている、痛みの治療で来ていたが、治療をしているうちに肌の調子も良くなってきた、気分が元気になってきたといったような状態が理想。元々契約関係(痛みを取る、痩せる)を超えた部分にアプローチできることがこれからのアンチエイジングではないかと考えている。
医療者が行うアンチエイジングのほとんどはスパメディスンであり、昔でいう養生である(食事に気を付ける、運動をする、マッサージを受ける、デトックスなど)。内科的なアンチエイジングとしてはホルモンを出すということがメジャーであるが、今後はそれらがすべて変わり、再生医療や免疫療法といった分野が幅をきかせるようになる。
・2016年AMBC(世界アンチエイジング学会)
モナコで1年に一回大きな学会であり、ここでこの先5年くらいのアンチエイジングの流れが決まっていく。
今、医療業界で流行っている言葉に「ザルにシャンパーニュ」という言葉があり、ベースが整っていなければ、何をしても意味が無いということを示している。例えば変形性膝関節症の患者さんにヒアルロン酸の注射をして、その後効果が無いので次に手術をして人工関節をするという選択肢だったものが、今後はすり減った軟骨を再生させる因子を注入するといった治療がメジャーになってくる。その際に体重が重い場合(ベースが整っていない状態)には、そういった因子を入れたとしてもうまく機能しない。
または体のどこかに慢性炎症がある場合には、再生因子を入れたとしてもうまく生着しないということがある。
したがって、再生医療や免疫療法などの最先端療法は注入された細胞がきちんと活かされるために健康的な身体というベースが必要になる。そのためにはアンチエイジングを超えたライフスタイルの見直しによる〝エイジリバーサル(若返り)″が成功のカギになる。
この若返りが攻めのアンチエイジングである。
・従来のアンチエイジングの評価
アンケート、血管年齢、骨年齢、肌年齢、心肺機能など、これらを包括して正しく評価するためにホルモンが重要。例えば脳の松果体から出るメラトニンというホルモンが質の良い睡眠をするために重要であったり、冷え症があれば、甲状腺機能の問題によるホルモンバランスの乱れが考えられる。
したがって太った、疲れやすくなったとか骨がもろくなったとか様々な症状の背景のほとんどが、ホルモン分泌が低下しているかホルモンが働かなくなっているかのどちらかが影響している。
・ホルモンとは?
生体の機能を発現させ、生物の正常な状態を支える重要な役割を担うため、ホルモンを総合的に評価するホルモン年齢を考慮する必要がある。
・AMWCで提唱された身体を若返らせるライフスタイル
1.良質なたんぱく質(アミノ酸)の摂取
2.良質な睡眠
3.筋力トレーニング、適度な有酸素運動
4.オーガニック食品の摂取
5.禁煙
6.ストレスなく気分よく生活すること
7.腸内環境が良いこと
このようなライフスタイルは、脳内で成長ホルモンの分泌を高めることができる。
成長ホルモンは、最低な機能を失った古い細胞に対して、細胞の修復、再成長、若返りに寄与している。
・成長ホルモンの働き
1.体脂肪の減少
2.気分の改善
3.体力の増強、筋力の向上による姿勢の改善
4.睡眠効率が改善
5.肌の改善
6.運動能力の向上
7.狭心症、脳卒中などの罹患率の低下
8.記憶力、集中力の増加
9.免疫反応の改善
10.消化力の促進
11.排尿機能の改善
12.ガン罹患率の低下
13.性的能力の向上
14.病気やケガからの回復
ホルモンは見た目にも非常に影響を与えるため、顔を見ればその人の成長ホルモンの状態を推し量ることができる。
成長ホルモンがうまく効いていないという見た目の特徴として、全体的に髪が薄くなる、目の周り(垂れたまぶた、細かいシワ)、たるんだ頬、薄い唇、顎のラインがのっぺりしている、歯の間の隙間、輝きを失った目などがある。
人間がなぜ若返ろうとする(エステに通う、化粧をする)のかというと、見た目が若いということは生物学的にその個体が若いということを私たちは本能的に知っているからである。
・薬剤による成長ホルモン補充療法の効果
90年代のアメリカで流行し、成長ホルモンを補充することで、60歳以上の男性200名のデータでは、筋力1.88倍、対疾病抵抗力1.71倍、皮膚の厚さ1.68倍、シワの数0.51倍、頭髪新生1.38倍、性交渉回数1.75倍、勃起持続時間1.62倍、夜間頻尿0.57倍という結果が出ている。
しかし、アスリートのドーピングや女性ホルモンが乳がんのリスクを増加させるという可能性などが示唆されて、21世紀初頭には、ホルモン補充療法は減少した(90年代広範には4人に1人の女性がホルモン補充療法をしていた)。
・成長ホルモンは年を取ると分泌できなくなるのか?
注射をしなければ成長ホルモンを増やす方法は無いのかというと、答えはノーである。
脳の下垂体細胞は、加齢しても成長ホルモンを分泌することができる。しかし、採血をしてみると、20代でも80歳代のホルモンレベルの人もいれば、80代でも20歳代のホルモンレベルの人もいたりと個人個人で差が大きい。細胞は永久にホルモンを分泌できるはずなのにこのような数値のばらつきがあるということには何かしらの原因がある。
それに気づいたのは、慈恵医大の痛み外来で加圧トレーニングを行っていた時に、トレーニング効果(痩せたり、筋力が増えたりといった変化)がはっきり出る人と出ない人がいた。そこで実際にホルモン量を測ってみると、元々の成長ホルモンの量が非常に低いというデータが得られた。このことから元々のライフスタイルの中で運動習慣があったり、アクティブに活動している人では、トレーニングの反応が良いが、そのような環境でない人では効果が出にくいということが分かった。
このような人に共通するのは、体のどこかに慢性の炎症があるということであり、それが筋肉にあれば筋肉の痛みやだるさ、血管にあれば動脈硬化、脳にあればうつ症状、肌にあればアトピーなどといった状態になり、結果的に免疫力が非常に低くなってしまう。そのため、少し運動をしただけでは、正常に成長ホルモンが分泌されず、ノーマルの状態にはなかなか戻らなくなっている。
成長ホルモンが低い状態では、細胞の再生能力が低いため、エステで皮膚を刺激したり、トレーニングで筋肉を刺激したとしても、そこから回復する力が弱いために色々なことをした割に結果が出ない。したがって効果が出ない人については養生(ライフスタイルを変えること)が必要である。
・ホメオスタシス(恒常性維持機能、生体恒常性)
ホメオスタシスはホルモン、免疫の司令塔である神経系(自律神経系)、免疫、ホルモンの関係が重要。多くの人で免疫が低いとホルモンも低くなっている。
・成長ホルモン分泌を高める組み合わせ
1.運動
2.栄養
3.免疫力を高める(腸内環境を整える、睡眠)
4.デトックス
5.笑いや楽しみのある生活:オキシトシンの分泌が促され、イライラが鎮まる(30秒以上抱き合うことでも分泌される)
運動が良いことは分かっていても、いきなり「運動をしてください」と言ってもやってくれないことが多いため、まずできることからやってもらい、その契約を全うしてもらうことを最優先するべきである。
水を飲むことが重要であり、加齢とともに水を体内に溜めておくバゾプレッシンなどのホルモンが減っていくため、ジェットラグのような症状(気圧の変化でバゾプレッシンの分泌量は低下する)が出てしまう。また脱水の状態では、脳に血液を送るために交感神経を優位にして、心拍数を上げ、血管を収縮させる。
慢性炎症や長期間のストレスによって交感神経が緊張している状態が続くと、ストレッサーを取り除くだけでは解決しないことが多い。例えば職場の対人関係に悩んでストレスを抱えている場合、仕事を辞めれば良くなると一般的には思われているが、それでも変化が無いことあり、その場合はホルモン、免疫系からのアプローチも行っていかなければ戻らない。
逆に現代は、副交感神経が優位になりすぎていることも多く、その場合はアレルギーや自己免疫疾患が多くなる。ドライアイや花粉症を併発している場合は、ビタミンAやDといった栄養からのアプローチも重要になる。
○アンチエイジングとエクササイズ
・エクササイズの種類
1.有酸素運動
2.筋力トレーニング
3.バランストレーニング(コアトレーニング)
4.柔軟(ストレッチング)
バランストレーニングが非常に重要で、寝たきりの原因は高血圧と転倒による骨折がほぼ同数である。
そのため、ずっと高血圧の薬を飲んでいた人も一度転倒してしまうとそれが命取りになってしまうことも多い。バランスを崩した時に素早く反応できる能力を鍛えておくことは、ある意味究極のトレーニングと言えるかもしれない。
筋力トレーニングを行うことで乳酸が蓄積し、それが刺激となって脳下垂体から成長ホルモンが分泌されるというプロセスがアンチエイジングを行う上で最も大切なことだが、加えて筋肉自体から分泌されるサイトカインが炎症を抑える働きが分かってきた。このことから、筋肉は究極の内分泌臓器ではないかと言われている。
脚が痛いという人がいた時に、柔軟性を高めるストレッチなどを行うことは素晴らしいことだが、もし下肢に慢性の炎症がある場合には、上半身に対しては筋力トレーニングを積極的に行い、サイトカインによって抗炎症を促すことが有効であると考えらえる。またこの筋肉から分泌されるサイトカインは、筋肉だけでなく肌など全身に効くものである。
*サイトカイン
免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするものをいう。多くの種類があるが、特に免疫、炎症に関係したものが多い(Wikipediaより抜粋)
・筋力トレーニングのメリット
筋量は年間0.5~1%ずつ低下していき、特に30代からの減少が著しいため、その時にどれだけ蓄えておけるかが重要である。筋量を維持することのメリットには以下のようなものある。
1.活動量を維持できる(遠くまで行ける)
2.姿勢を維持できる
3.痛みの予防
4.転倒の防止
筋力トレーニングをすることを医療費に換算すると30~40万円/月程度になる。その理由はTNFという炎症を引き起こす物質があり、これを抑えるための免疫製剤を使うと、月に30~40万円かかることに起因する。本来、薬を使わなくても、筋力トレーニングをすることでTNFを抑えることができるということである。
運動不足は、サルコぺニアと言われており、これにより危惧されるのは筋量が減ることよりも、筋肉内でエネルギーを作り出す源であるミトコンドリアが減ってしまうことが最も重大な問題である。
ミトコンドリアの減少によって、力が入りにくくなったり、ムキムキな割に筋力が無いといった状態に陥る。見かけだけではなく、筋肉の性能に注目していくと、栄養やホルモンといった部分へのアプローチが重要になってくる。
*サルコぺニア
進行性及び全身性の骨格筋量及び骨格筋力の低下を特徴とする症候群。
加圧トレーニングを始めるにあたって、トレーニングを行うと15分後に成長ホルモンの分泌が著しく高まるという論文が東大から出されていたが、この結果は健康な人ではその通りになるが、加齢やどこかに慢性炎症を抱えている人で同じ結果が出るかと言うと答えはノーである。
ベースがきちんとしていれば、成長ホルモンを出すためのトレーニングは加圧トレーニングだけでなく、加速度トレーニングやフリーウェイトでも可能である。しかし軽い負荷でいくら行っても分泌はされないため、ある程度の負荷で行う必要がある。
筋肉は様々な成長因子を分泌するが、その中にミオスタチンというものがあり、筋肉の成長を抑制する作用がある。筋力トレーニングを行うことでこのミオスタチンをブロックすることができる。
もしミオスタチンがなければ筋肉は壊されることが無いため、どんどん増殖していくことになる。
マウスにミオスタチン阻害薬を投与すると、体の大きさが筋肉によって2倍になったというデータがある。スイスの製薬会社が2011年アメリカ抗加齢医学会でミオスタチン阻害ペプチドを発表した。
当院の顧客で、東京マラソンに出るという人にこれを注射すると、マラソン後でも筋肉痛が全く起こらなかったという効果が得られている。
骨粗鬆症の薬として使用されているビスホスホネートでは、骨の分解を抑えることで質の悪い骨が残り、骨強度が低下したというデータがあるが、ミオスタチン阻害ペプチドの場合は、永久に効果があった。
筋肉の質に関しては、まだ解明されていないが、筋量が多いことによって内分泌作用は高まるため、有用であると考えられる。
*ビスホスホネート
破骨細胞の活動を阻害し、骨の吸収を防ぐ医薬品(Wikipediaより抜粋)
筋トレーニング後の体内の変化として、インターロイキン6、インターロイキン15が筋線維から分泌され、これらはマイオカインと言われている。マイオカインは全身的な抗炎症作用、脂肪分解作用、血圧の安定、血糖代謝の改善作用の他、血管を新生する働きを持つVEGFという成長因子の生成も増やすことから動脈硬化の予防作用も持っている。
・有酸素運動のメリット
心臓と肺の機能を上げること
1.全死亡率の低下
2.循環器疾患による死亡率の低下
3.がん死亡率の低下
4.生活習慣病の発症の低下
5.認知症発症の低下
6.精神の安定、記憶力、スタミナとの関連
人間は最後、肺炎で亡くなることが多いが、これは肺が炎症を抑える臓器だからである。肺が悪くなると、炎症を抑えるためのフィルターが働かなくなり、炎症を抑えきれなくなり、肺自体が炎症に陥り、血中に酸素を送れなくなり、亡くなってしまう。すなわち心肺機能が高ければ、抗炎症作用も高いと言える。
有酸素運動は、ミトコンドリアを増やすことによって、成長ホルモンの分泌を促す、酸化ストレスの原因となる活性酸を抑える働きなどがある。心肺機能を最も下げるのは喫煙であるため、禁煙は必須である。
・有酸素運動の進め方
歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を毎日約60分以上行う。歩数で1日あたり約8000~10000歩、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。65歳以上の高齢者では、横になったままや座ったままにならなければどんな動きでも構わないので身体活動を毎日40分行うことを目指す。
現在の身体活動量を少しでも増やす。今より毎日10分ずつ長く歩くなど。
*健康づくりのための運動指針2013より
実際、毎日欠かさず60分運動をするというのは難しいことも多いが、このような指針は、若い人から高齢者まで万人が安全に行えるメニューで構成されるため、歩行という安全な強度の運動では60分程度の時間が必要になってしまう。若い人では、より高い負荷で行えばより短時間でも良い。
高血圧の人が楽なスピードで歩いても、血圧に変化は出ないが、少し早いスピードで行うことで血圧が下がってくるということから、今の自分に少し辛い負荷をかけることが重要(週2~3回、20分で良い)。
マラソンなどの長距離走をしている人は、心肺機能が高く、スタミナはあるが、成長ホルモンについては軒並み低いというデータがある。
・成長ホルモンを高める運動の力
新しい概念として、短時間の高負荷有酸素運動は疾病の治療に有効である。ただし、高血圧、心臓疾患、糖尿病の方は必ず医師の運動処方に従って行う。
重量挙げやレジスタンス運動など高強度の運動を週に2~3回。
最も重いバーベルを自分で6回挙げる方が、軽いものを上げるよりは15倍もの成長ホルモンが分泌される。効率的に成長ホルモンを分泌させるという観点からは容積が5倍以上ある下半身のトレーニングを重視するべきである。週に2回以上の短距離走やテニスもまた成長ホルモンを上げる作用がある。
運動をすることで乳酸が溜まり、筋肉を壊してしまうのはもったいないことで、振動を使ったトレーニングなどで血流を良くし、脳に届けることでより高い成長ホルモン分泌が期待できる。
・組み合わせのアンチエイジング
ヒト成長因子(hGf)は21世紀における究極の天然成長ホルモンの遊離物質で、ビタミン、ミネラル、ホルモン前駆体やハーブなどと組み合わせるほど分泌が促進される。これによりバランスのとれた細胞内環境を作り出し、若々しい代謝レベルやホルモンレベルを高める。
1.ビタミン類
ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、イノシトールヘキサニコチン酸
2.ミネラル類
クロム、亜鉛、マグネシウム、ヨウ素
3.アミノ酸類
グルタミン、L-カルニチン、アルギニン、GABA、タウリン、リジン、オルニチン
4.ホルモン類
DHEA、プログネノロン(副腎皮質から分泌)、メラトニン(松果体から分泌)
5.必須栄養素
ウシ初乳
6.ハーブ、植物類
フォルスコリ、朝鮮ニンジン、ナツメ、野生ヤムイモ、クコの実など
免疫力が低い人ではDHEAの元になる物質が減ってしまう。免疫力が低いと成長ホルモンがうまく分泌されない。フォルスコリは成長ホルモンブースターとして知られている。
・トレーニングとタンパク質摂取
トレーニングをする上でのタンパク質の摂取の仕方は、目指す身体によって変わる。摂取したタンパク質が使われる順番は
1.肝臓
2.筋肉
3.皮膚、髪、爪
となっている。したがって一気に摂取してもほとんどは内臓に行ってしまうため、数回に分けて摂取することで筋肉や美容に関わる部分にも届けることができるようになる。そのため基本的には毎食摂るべきである。生の食品でプロテインスコアが100になっているのは卵のみ。運動の30~1時間前にアミノ酸を摂取することで筋肉痛を大幅に減少させることができる。
特に重要なアミノ酸としてはグルタミンがある。グルタミンの主な作用は
1.免疫細胞に作用し、腸管免疫を上げる
2.タンパク質合成
3.線維芽細胞に働き、コラーゲン合成を高める
4.消化管に働き、粘膜を強化する
もう一つ重要なアミノ酸はアルギニンで、成長ホルモンが正常に分泌されているかを診るアルギニンテストでは、アルギニンを飲んで30~1時間後に血中の成長ホルモン量が増えているかを検査するのに使われるほど、成長ホルモンと言えばアルギニンであると言っても過言ではない。
アルギニンは、肉、魚の赤身、貝、甲殻類に多く含まれるため、元気が無い患者に対しては、期間を決めてこれらの食材を多く摂ってもらう、又は卵やプロテインを積極的に摂るように勧めることが有効である。
グルタミン、アルギニンについてはガンの治療でも話題になっており、有明のガン研病院でガン免疫栄養療法として研究が行われている。患者の免疫力を測るのは意外と簡単で、とりあえずの指標としては健康診断の検査項目になっているアルブミンの量を見ることで推し量ることができる。値が4.5以上であれば免疫力は高いと考えられ、4以下では低下していると思われる。
・亜鉛の重要性
亜鉛は細胞が分化していく上で重要なミネラルであり、クリニックで採血をすると高値を示す人は一人もいないほど不足しがちな栄養素である。亜鉛が低下する一番の原因はピルであり、亜鉛と対になる栄養素は銅であるため、血液検査で亜鉛が異常に低く、銅が高値の場合は、ピルを服用しているということが問診しなくても分かることがある。
亜鉛は床ずれで褥瘡ができてしまった患者に飲ませたり、クリームを塗ったりするほど、肌の再生や代謝に非常に重要である。
*ピルにはエストロゲンとプロゲステロンと似た成分が配合されており、服用することで妊娠した時と同じホルモンバランスになり、脳に妊娠したと認識させることで次の排卵を止める。
・成長ホルモン分泌を妨げるマイナス要因
成長ホルモン分泌を促進するためにこれとこれをしてくださいというのは非常に簡単だが、最も難しいのは成長ホルモンの正常な分泌を妨げている悪い習慣を止めさせることである。
免疫、自律神経、ホルモンが3本柱としてある中で、非常に重要になるのが腸内環境。腸内環境が悪いことで慢性炎症が治らなくなり、結果が出なくなる。
良い結果を得るために押さえていなければいけないポイントが以下の4つである。
1.見た目のチェック(前述の成長ホルモンと見た目の関係)
2.便通、便の状態(腸内環境)
3.睡眠
4.薬の服用の有無
またアルコールは成長ホルモン分泌を70%低下させるため、せっかく運動をしたとしてもその後にアルコールを摂取すると、その効果は台無しになってしまう。一週間続けて飲んでいると75%低下する。
成長ホルモンは就寝後1時間~4時間後に最も分泌されるため、もし飲む場合は、昼に飲んで運動をする場合は6時間以上空ける必要がある。エステや治療においても、施術のその日アルコールを摂れば、組織の再生能力は格段に落ちるため、結果を出すために絶対禁止するべき。
お酒を飲んで顔が赤くなるという現象は、慢性炎症を引き起こす。慢性炎症がある状態が筋肉の痛みやサルコぺニアの原因である。顔が赤くなるかと酔うのは異なる。
脳下垂体から分泌された成長ホルモンは肝臓でIGF-1
*IGF-1(インスリン様成長因子)
インスリンと配列が高度に類似したポリペプチドで、ソマトメジンCとも呼ばれる(Wikipediaより抜粋)
もう一つ重要なのは睡眠であり、副交感神経を正常に働かせることが成長ホルモン分泌に非常に重要である。しかし睡眠薬は免疫力を劇的に下げてしまうため、避けるべきで、140以上で病気にかかるリスクが大幅に減ると言われるDHEAの値が、15年以上睡眠薬を服用している人では50~60になってしまう。10年以上もの長期間睡眠薬が処方され続ける国
は世界的に見ても非常に珍しい。
ベンゾジアゼピン系と言われる睡眠薬を飲み続けることで、脳の機能、ホルモンが大幅に減少する。
今まで様々な睡眠薬や自律神経系の薬を飲んでいた高齢者が施設に入っても、それらの薬を全て止めるだけで良くなってしまう例が非常に多く見られる。施設に入る時には、よだれを垂らしながら来てそれでも薬を飲まされていて、色々な科から似たような薬が処方されて、重複しているものもあり、それらを止めた途端にシャキっと良くなるが、飲まされていた10年間のことを全く覚えていないというほど恐ろしいものであるということを知っておく必要がある。
・自律神経とホルモン
自律神経とホルモンには密接な関係があることは良く知られているが、交感神経が優位だと必ずしも悪いというわけではなく、自律神経のモードによって増えるホルモンは変わってくるため、それぞれ重要である。交感神経が優位な状態では、男性ホルモンが増えやすくなり、やる気や元気を出すために非常に重要なホルモンである。亜鉛、ビタミンD、運動をすることで分泌がより促進される。成長ホルモンは脳下垂体から分泌されるため、分泌のメカニズムがもう少し複雑だが、男性ホルモンは簡単に増やすことができる。女性ホルモンやセロトニン、エンドルフィンは副交感神経が優位な状態で増えやすいホルモンである。セロトニンはマグネシウムと反応することでメラトニンとなり、睡眠を誘導する(音楽、入浴、香りが有効)。
何か一つのことで成長ホルモンの分泌を劇的に増やすというものはなく、ライフスタイルをどのようにしていくかが重要である。
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