佐藤ドクター研修 コレステロールの正しい知識
「コレステロールは悪者か?」
「あぶら」のことを気にしなければいけないのは、人間だけである。
それは人間だけが文明を手に入れて、調理にあぶらを使っているからである。
その中には食材に含まれるあぶらと調理に使われるあぶらがあり、それらは明確に区別して使っていく必要がある。食べた時にうまみとして感じるのは、圧倒的に調理に使われるあぶらの方で、一度それを覚えてしまうと、たとえ中性脂肪の値が悪くても、調理のあぶらを摂りすぎたところですぐにどこかが痛くなるわけでもないので、習慣的に調理用あぶらが使われている料理を食べてしまうようになる。
動物は加熱料理をしないため、このような問題に直面することはない。日本人の調理の主体は土鍋であった。土鍋は調理のあぶらを必要としないが、それがフライパンにとって代わってから調理用あぶらが使われるようになった。そしてもう一つは、インフラ整備によるガスの普及がそれを後押しし、より高温で調理が行われるようになった。フライパンやガスが普及することは悪いことではないが、文明が発展することについて何も考えずにそれを享受していると、メタボリックシンドロームなどの問題が起こってくるのである。
例えば、すし屋でトロを食べるという時に、トロにはあぶらが多いが、調理のあぶらは使われていない。
私たちは食事をする時に、この料理には調理のあぶらが使われているのか、いないのかを常に考えるようにする必要がある。
・コレステロールと中性脂肪の違い
脂質には、コレステロール、中性脂肪の2種類があり、これらは全く別物である。
コレステロールの値は、食事からの吸収分が全体の3分の1、体内での合成が3分の2の合計値で表される。脂肪を消化する胆汁は、コレステロールの骨格を持っており、腸内で消化に使われた後、再吸収されもう一度肝臓で合成される。
したがって、コレステロールの値が高いからといって、全て食事が問題とはならないし、遺伝的要因もある(家族性高コレステロール血症)。また遺伝的要因があったとしても、薬を飲まずに済む人も非常に多く、後天的にどうにかできる場合がほとんどである。
閉経後の女性は、コレステロール値が上がってくる。特に俗にいう悪玉コレステロールが上がりやすいが、これは女性ホルモンであるエストロゲンがコレステロールの代謝促進に働いていたために、エストロゲンが減少するとコレステロール値は高くなる場合がある。
コレステロールの主な働き
1. 各細胞壁の構築
2. ホルモンの材料となる
3. NK細胞の活性を上げる
などの役割がある。
中性脂肪はほとんど体内で合成されないため、主体になるのは食事である。また遺伝的に中性脂肪が高くなるという人も非常に稀である。その確率は、内科医の医者が一生をかけて診療をしても出会わないほど低いものである。したがって中性脂肪値の検査は、必ず空腹時に採血を行う必要がある。
また食事による要素がほとんどであるため、これくらいのものを食べればこれくらいの値になるという概算が可能である。
中性脂肪はひたすらエネルギーとして消費されるものであり、余ると血管から外に引っ張り出され、脂肪細胞内に脂肪滴として蓄積され、皮下脂肪、内臓脂肪となる。この時には血液中の中性脂肪の値は下がるが、消費はされていないため、値が下がったからと言って安心はできない。しかし、中性脂肪は動脈硬化には一切関与しない。その理由は前述のとおり、血管内に余った分は血管外に排出されるからである。
中性脂肪で最も厄介なのは、その血管外に出る時に血小板をどんどん自分に巻き付けて血栓をつくることである。それは雪だるまをつくるときに小さな雪の玉を転がしていくと少しずつ大きくなっていくのと同じような現象である。そのようにして大きくなった中性脂肪が細い血管を通れば、もちろん詰まってしまい、確実に脳梗塞、心筋梗塞の原因となる。このことから中性脂肪は突然死との関連が強い。
動脈硬化に関わるのはコレステロールの方であり、コレステロールが血管壁に張り付いて柔軟性が低下していれば、中性脂肪も血栓も詰まりやすくなる土壌ができてしまうと言える。
・悪玉コレステロールは存在しない?
コレステロール、中性脂肪もホルモンも血液中を単独で移動することができず、運び屋の上に乗せられて移動する。その運び屋の中でコレステロールを運ぶものリポタンパクという。
1. LDL(Low Density Lipooritein):低比重リポタンパク(一般に言われる悪玉コレステロール)
2. HDL(High Density Lipooritein):高比重リポタンパク(一般言われる善玉コレステロール)
3. カイロミクロン
私たちが普段、HDL、LDLと呼んでいるのは、実はコレステロールではなくその運び屋のことを言っているのである。それらに乗っているコレステロールをいう時にはLDLコレステロール、HDLコレステロールというのが正式名称である。LDL、HDLはコレステロールを運び、カイロミクロンが中性脂肪を運び、これら3つの運び屋は肝臓でつくられる。
LDLはコレステロールを乗せて、肝臓から全身の細胞にコレステロールを届ける。HDLは到着先で余ったコレステロールを乗せて肝臓に戻るのが役目である。
一般にLDLは悪玉と言われるが、コレステロール由来のホルモンをつくる副腎、卵巣、精巣は材料としてコレステロールが必要であるためLDLが必要なのである。したがって本来は悪玉も善玉も無いのだが、重要なのは運び屋それぞれの量である。
確かにLDLが多いと、各細胞にコレステロールを運び、到着先でコレステロールを降ろすわけであるから、到着先ではコレステロールがだぶつくことになる。だぶついたコレステロールは石灰化するため、その時の到着先が血管壁であれば、動脈硬化を起こす。その指標になるのがLDLとHDLの比率である「動脈硬化指数」である。LDLをHDLで割った値であるが、2.5以上になっていると(測定する試薬によって若干誤差は出る)、HDLに対してLDLが多くなりすぎているということで要注意である。2.0程度であれば、コレステロールに関しては問題ないが、病気は単独では起きないので、血糖値が高いなどのバックグラウンドがあれば、糖が血管壁に付着して動脈硬化が進んでいる可能性があるため、値が低いからと言って安心できない。
○HDLが増える要因:運動、ビタミンE、オメガ3系の脂肪酸など
運動によって脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンが増え、HDL合成が促進されるためと考えられる。
○HDLが減る要因:中性脂肪の増加
中性脂肪とHDLは負の相関関係にあり、中性脂肪が増えるとHDLの材料がカイロミクロンに回される。
医者が血液検査の数値を診る時に、中性脂肪の値は低いが、HDLの値も低い場合には、「この人はたまたま検査の時には空腹時に採血をしているので、中性脂肪の値は正常だが、日常的には慢性的に中性脂肪の値は高くなっているんだな」と判断する。
「検診の 前は小食 あと過食」と調整して検診を臨んだとしても、コンピューターが見抜けなかったとしてもアナログが見抜けるのは、それだけこれらの値が負の相関関係になっているためである。
○LDLが増える要因:食事内容、調理方法、トランス脂肪など
○LDLが減る要因:女性ホルモンはLDLを減らしている
カイロミクロンは中性脂肪を運ぶ運び屋であるが、この運び屋の粒子は大きく、血小板を引き付けやすいため血栓をつくりやすい。
○中性脂肪を上昇させる要因:アルコール、糖質の多い食事、調理のあぶら、食材のあぶら、過食
ではコレステロール、中性脂肪は低ければ低いほど体の環境として良いのかというと、そうではない。
コレステロールが低すぎれば、細胞の強度が低くなったり、ホルモンが正常に作られないなど多くの問題が起こる。中性脂肪については低すぎて問題になると言えば、乾燥肌になるくらいである。
・脂質の過剰摂取による免疫学的な問題
免疫学的に問題なのは、脂質が多いと血中及び組織が酸性に傾くことである。コレステロールに関しては、LDLが多い場合、または中性脂肪の高い場合、その他肥満も必ず組織は酸性である。
そうなれば、リンパ球の活性(異形及びガン細胞の除去能力)は確実に低下し、発病のリスクが高まる。
血液中のpHを測ることは可能で、静脈血を使って採血をするが、本来は全身をこれから巡る動脈血を使うのが理想である。しかし動脈血の採血は、止血が静脈血に比べて困難であるため、使われないのが一般的である。
・なぜコレステロールが悪者になったのか?
1913年、ロシアの病理学者であるニコライ・アチニコワがウサギに大量のコレステロールを投与したところ、血管壁にコレステロールが沈着して動脈硬化が起こるという実験結果を発表した。
しかし元々草食動物であるウサギに大量のコレステロールを投与すること自体が実験モデルとして間違っていると言える。
1970年には、アメリカの医師ヘグステットが、食品中のコレステロール100㎎増加すると、血液中のコレステロールの値が6㎎上昇するというヘグステットの式を発表した。
この式は後に、個人差が大きく、人の体はそのような単純な式では表すことができないと批判された。
1996年、国内の学会が高コレステロール血症の基準を、総コレステロールで240mg/dlを220mg/dlに引き下げた。
2007年、LDLコレステロールについては、140mg/dl以上をHDLについては40mg/dl未満を異常とするとした。この時から総コレステロールについては診断基準から削除されたものの、この時点ではまだLDLとHDLの比率については言及されていない。
2010年、日本動脈硬化学会がHDL、LDLの比率を診断基準にするべきとしたが、まだ診断基準としては採用されなかった。
何故、コレステロール値が高いことが問題視されるかと言えば、心筋梗塞の危険性を重視する心臓の専門医、動脈浄化学会などの側かの意見が強く反映されているからである。
心筋梗塞も血栓が詰まって引き起こされることを考えると、中性脂肪も議論に上がるべきであるが、なぜかコレステロールだけが独り歩きをしている。
これについて2010年の週刊アサヒは、製薬会社、医療機関側の利益の問題を取り上げた。中性脂肪を下げる薬は、ジェネリックの類のものは1錠の原価は10円程度であるが、コレステロールを下げる薬は1錠最高のもので300円で、5000億円規模の市場になっている。
○大阪府守口市民センターの調査(1997)50歳以上16461人が対象。
男性はコレステロール値が低くなるほど、5年後の死亡率が高く、女性はコレステロール値が最も高いグループと低いグループで死亡率が高くなっていた。
○茨城県の調査(2002)40~79歳96000人が対象。
5年間コレステロール値とガンの因果関係を調査し、ガンによる死亡はコレステロール値が160未満で最も多く、240以上で最も少なかった。
○日本脂質学会
50000人が6年間調査し、総死亡率が最も少なかったのは、総コレステロールが200~270mg/dl、総コレステロールが高くても、低くても死亡率は高くなるが、低い方が高くなる。
総コレステロール値が低くなるほど、ガン死亡者数は増え、総コレステロール値が160未満は270以上の5倍。
○アメリカ、ノースカロライナ州の1973~1993に渡る調査(男性48000人)
コレステロール値が高いほど、肺炎、インフルエンザで入院する人数が少なかった。
○神奈川県、伊勢原市の調査
LDLコレステロール値が180以上の人の呼吸器疾患による死亡率が男性で3分の1、女性で2分の1であった。
・総括
コレステロールに善も悪も無い。コレステロールを運ぶ運び屋の数が問題。
コレステロール自体は細胞壁をつくり、またホルモンの材料にもなり体にとって必要なものである。
それ故、各細胞にコレステロールを届ける運び屋の数と余ったコレステロールを持ち帰る運び屋の数のバランスが取れているか否かが問題である。
LDLとHDLは相殺できる。相殺できていない場合のみ、動脈硬化を懸念する。
総コレステロール値で動脈硬化の進展は議論できないので、動脈硬化を心配するならLDLとHDLの両方を測定する必要があり、動脈硬化だけを議論するのなら総コレステロールの測定を省略してもいいが、免疫状態の概要を把握するには総コレステロール値で見るのが一番良い。
HDLが減ることをしないこと、中性脂肪の恐ろしさを良く理解すること、コレステロール降下剤を正しく処方しないと新陳代謝を下げることになる。
。