2015.5.13 冷えを考える
2015年5月13日(水) 10:30~12:00
アイオワ州にティットマンという生理学者がおり、20年前にある研究を行っている。
それは40㎝四方で高さ50㎝の箱にライ麦の種を植え、4か月後に約20cmに育ったライ麦に張っている根は合わせるとどれくらいになるかというもので、1本にまとめると11200㎞にもなったという。この実験で言えることは、見える世界と見えない世界があるということで、見える世界とは20㎝のライ麦で、見えない世界とは、その20㎝を支えるために11200㎞が必要であるということで、もしライ麦がもっと育てばこの距離は一層長くなるのである。
現代は、見える世界ばかりが信じられ、科学に過信する、技術に過信するといった状況が、見えない世界があるという感性を鈍らせている。
人の体に置き換えると、代謝は見えない、熱は見えない、どんどん見えない世界に気づかない人間が多くなっているのである。すなわち寒く感じなければ冷えていないのかということである。
私は平成7年にある講演をしたが、その時に「察しの文化と言葉の文化」ということについて触れた。例えば人と話していて「この人は今こういうことをして欲しいのだな」「この人はこれを伝えたいのだな」などと察するということが現代は全く無くなっており、全て言葉にしなければ伝わらないという文化になってきているのである。
これは見えないものを感じ取れなくなり、実際に聞こえるものを通してしかわからなくなってきているのである。今回お話しする「冷え」は見える世界と見えない世界の最たる例である。
・「冷え」と「冷え症」は違う
世の人の多くは、自分に冷えがあるとは感じていない。それは薄着の生活、エアコンの生活に慣れているからである。しかし実際にサーモグラフィで我々の体の温度分布を見ると例外なく足元が冷えている。
心臓を中心に37℃ある上半身に対し、下半身は下に行くほど低く、足元は31℃、足指の皮膚温は30℃を下回ることも多い。足元と上半身では6℃前後の差がある。こうして体の上下の温度差ができてしまった状態が「冷え」である。
「冷え症」とは、この温度差が大きくなり、手足の冷たさを自覚している状態のことである。大体8~9℃の差ができてくると、「症」の領域に入ってくる。生命維持のために重要な臓器のほとんどが上半身に集まっている。心、肺、肝、膵、そして脳もこれらは24時間働く発熱器官である。
当然、頭や躯幹はこれらの発する熱を受け、体温低下しにくい。下半身はその逆である。
「冷え」は誰にでもあるものだが、冷え症になるかならないかは、本人の努力次第なのである。
人間は、1日の内、16時間は起き上がった状態であり、重力に逆らって血液の環流も悪い。
「冷え」は全く性別と関係なく発生する。
しかし「冷え症」は圧倒的に女性に多い。これはまさに日常の男女のホルモン分泌の差によって生じるのである。さらに女性の場合は、更年期に入りホルモン分泌が減少すればするほど、自律神経のメカニズムを介して、それなりに「冷え症」が加速する。
ある体育大学の調べでは、立っている状態での深部静脈の血流は1秒間に8~10㎝重力に逆らって心臓に向けて上がっていくが、座っている時では5㎝になってしまう。さらに座って30分経過するとそれが2.5㎝になるという。これは股関節、膝で血管が折れ曲がり、血流が阻害されるために起こる。電車に乗った時にも、立っている人と座っている人では全く血液の流れ方が異なるのである。
冷えの存在は、「血液の還流が悪い」という物理的原因とそれに伴う体温低下による「血管収縮」の2重の要因の結果である。それによって酸素、ブドウ糖、ホルモンなどの運搬量低下、老廃物、疲労物質の蓄積が起こる。
結果、細胞の機能低下:臓器の機能低下、免疫力の低下:感染、発ガンのリスク上昇
・「ほてり」とは?
ほてっていれば「冷え」がないのか?
ほてっていれば体温が高いのか?
答えは全く逆で、低体温である場合がほとんどなのである。
だが多くの人はそれを勘違いしている。
まず「日常から体を冷やすような服装、食事、生活習慣をしているので、冷えに慣れっこになり、冷えを感じるべき本能が働いていない」ということを認識すべきである。
どんなに低体温の人であっても35度程度の体温はあるはずなのに、気温が25度でも暑がるということは体内と体外の温度差を考えても異常なことであり、これはまさしく「ほてり」なのである。
人間の体には恒常性(ホメオスタシス)を保とうとする能力、働きがあり、冷え(上半身と下半身の過剰な温度差)が進むと血流不全によって組織が壊死に向かうのを是正しようとして何とか血流を増加させ各細胞に酸素やブドウ糖を運搬しようとして、体はあらゆる試みをする。
本来は筋肉を動かし、発熱させ、血管を拡張させ、そして血流を増加させ酸素やブドウ糖を供給しようとするのが本筋であるが、それをやっていないから冷えが進むわけで、こうゆう状況下において行われる恒常性を保とうとする体のメカニズムは一時的な、緊急避難的な「血管拡張」(毛細血管の)なのである。もちろんこれは根本的な血流改善につながらない血管拡張である。
血管が強制的に拡張するので、少し赤ら顔になるし、血流が増した分温かく感じる訳であるが、熱を産生することで血管拡張した訳ではないので、温かく感じたことを体温が高いと解釈するのは正に間違いなのである。これが「ほてり」である。
寒い時には立毛筋が緊張して毛穴を締めることで皮膚から熱が逃げるのを防ぐ反応が起こるが、これは防衛反応として正常なものである。
しかし、さらに温度が下がると自分の意志とは関係なく筋肉が収縮して熱を作り出そうとする「ふるえ」が起こる。これは低体温によって生命の危険を感じた身体が行う体温低下に対する究極の反応なのである。
それに対して「ほてり」は冷えに対する究極の反応である。
所詮、血管が拡張したところで、血管内に存在する血流は古血、すなわち滞った血流が大半である。そこに強制的な血管拡張によって、一部新しい血液が送り込まれ皮膚の赤みが増し、暑く感じる。
「ほてる」という表現は思いがけない時の熱感であり、発赤である。思いがけない時=さして気温の暑さを感じない時。
外気が高くないのに、例えば冬でも暑い、暑がりと言っているのは単にほてりのことが多い。私たちは恒温動物なので、冬でもどんなに体温の低い人でも35度はある。一方、気温は一ケタ台の時もある。寒く感じるのが当たり前なのに暑がること自体が異常なのである。
・結
今回の内容でご理解頂けたと思うが、一言で体温と言っても重力と血流まで加味して、その詳細を捉えてみると、上半身と下半身でかなりの差が生じることがお分かりいただけたと思う。もしかすると下半身の温度が低くても上半身(躯幹)の体温が高ければ、それなりに上半身の免疫、躯幹の免疫は保たれるのではないかと考える方もいらっしゃると思うが、そうはいかないのである。
上半身と下半身は必ず繋がっているもので、血流が悪く、滞った古血は、少しずつではあるが必ず心臓に戻り、そのために上半身に上ってくるものなのである。この滞った冷えた血液は確実に老廃物、疲労物質の濃度が高く、それらが上半身に戻ってきた時、上半身、躯幹の血液の酸性化にもつながるのである。
安易に上半身、下半身を切り離して考えるわけにはいかないのである。
・月経周期
女性ホルモンには卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類があり、卵胞ホルモンは月経が終わった頃から急速に増えて排卵期になると200~400ピコグラム分泌され、それをピークに分泌が低下し、21~22日目に再び150~300ピコグラム程度の山をつくる。
それに対し黄体ホルモンは排卵の時までは全く分泌されず、排卵の後から1週間後くらいに10ナノグラム程度分泌され、月経の時には0になるというパターンがある。
なぜこのようなパターンになるのか?それは月経の時に剥がれ落ちる子宮内膜と深い関係がある。これは畑の土と同じで、種を蒔いて花を咲かせる時に薄い土では根は張らない。
通常では約1㎝の土(内膜)がつくられるが、これが8㎜では根は張らない(着床しない)。そのためにこのような卵胞ホルモンの分泌量の波をつくってきちんとした土壌をつくるのである。
次にもし良い土壌があったとしても、その土がカラカラになっていたらどうだろう?
これもまた根は張らない。この土に水分を与えるのが黄体ホルモンの役目である。
従って排卵以降の高温期では、子宮内膜が浮腫によって約1.3㎝に肥厚する。
これらの作用によって、受精卵が着床しやすい環境がつくられるのである。
もしここで妊娠が無ければ、その土壌は全て洗い流され(月経)、また新しい土壌がつくられるのである。
これらのメカニズムは普段目にすることができないため軽視されがちだが、非常に重要なことである。それを忘れると、生理痛と言えばすぐピルを使うようになってしまうのである。ピルを使って薬で分泌をコントロールすれば、体に本来備わっているこの分泌リズムが崩れてしまうのは目に見えている。長期にピルを使用した人では体が女性ホルモンの分泌パターンを忘れてしまっており、これを思い出させるにはトレーニングで2~3年かかるとも言われている。
卵胞ホルモン、黄体ホルモン共に卵巣から分泌されるが、その指令を出しているのは脳下垂体から出る卵胞刺激ホルモン及び黄体刺激ホルモンである。ここにはフィードバック機構があり、指令を受けて分泌された卵胞ホルモン、黄体ホルモンは血流に乗って脳下垂体にも運ばれる。この時に脳下垂体のセンサーが、命令通りに十分に分泌されていると認識すると、分泌が抑えられるのである。毎日ピルを飲んでいると、脳下垂体は十分に卵巣からホルモンが分泌されていると感じ、自分でホルモンを出そうとする機能は顕著にていかしてしまうのである。
黄体ホルモンには、体温上昇作用があり分泌が高い時には高温期になる。それに対して学術的には卵胞ホルモンには体温低下作用があるため、分泌のピークで最も体温が低下したところを排卵日と予測している。したがって女性は月の半分は冷えやすいとも言えるのである。
・更年期症状について
閉経によって卵巣からホルモンが出なくなる
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フィードバックシステムによって脳下垂体からホルモン分泌の命令が出続ける
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司令塔である視床下部の半分はホルモン中枢であり、もう半分は自律神経の中枢であるため、過剰な命令が自律神経にも影響を与える
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1.それにより血管コントロールがうまくいかなくなり、ほてりや頭痛等の症状が出る
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2.また、ネガティブな考えや不安、悩みといった大脳からの影響によって自律神経バランスが崩れるといった要素もある。
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3.卵胞ホルモンは動物学的には発情ホルモンであり、気持ちが高揚する。
閉経によってこのホルモンが出なくなれば、気分の落ち込みが起こり、欝のような症状が出る
更年期の症状が起こる原因には以上の3つの原因がある。
Q&A
Q:お客様の中に冷えを訴える人は多くいて、手足が冷たかったり、ほてっていたりとどちらも体が冷えている状態であるということだが、どちらが重症といった区別はあるのか?
A:上半身、下半身の温度が8~9度以上差がある場合は、緊急処置として血管が拡張するため7度程度であれば、収縮して冷たいのかもしれない。
足先の温度が27度以上なのか、以下なのかがほてりと冷たくなる状態の境であると言えるのではないか。そういった意味では収縮している人の方が冷たいという自覚があるため、まだ良い状態と言える。
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