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2015年5月
第2回 菅原明子博士 レベルアップ研修・講義内容
2015年5月15日(金) 10:30~12:00
■現代の栄養学の問題点
今年は戦後70年になる年で、戦争が終わってから糖尿病は飽食の時代と共に増えていきました。糖尿病については女子栄養大学と京都大学が有名で、特に京都大学は日本一と言われています。
女子栄養大学では戦後すぐに4群食事法がつくられ、京都大学では6群食事法が考え出され、採用されています。京都の方では、乾物や海藻などが含まれていますが、4群の方では戦後、タンパク質が不足しているという考えから、これらの食物繊維を多く含む食材が無視されているという現実があります。
これは現代の食事に照らし合わせると明らかに時代遅れで、このままでは栄養士や管理栄養士の資格を取った人であっても、糖尿病や腎臓病、ましてやガンは治せません。
最近では、定食屋さんでも十穀米や五穀米を出しているところがあるにも関わらず、未だに病院食で白米が出ているという現状は、明らかに疑問です。
しかしその現状がずっと変わらないということは、日本の医療制度や栄養学会に根本的な問題があるとしか言えません。
■1400kcal食の弊害
ダイエットをするということは、リバウンドという問題が常に付きまとっています。どのようなダイエットをしてもほとんどの場合はリバウンドが起こってしまいます。しかし実験では、スープCを使ってカロリーを1100kcalに抑えた時(スープC、50)にはリバウンドが起こりませんでした。
今回の実験で使用したネズミは若かったので、脂肪の合成も盛んでスープC、100(人間でいうと1800kcalまたは普通食に相当)の食事を与えた場合では、どんどん体重が増えていきました。
ではスープC、75(1400kcal相当)はどのような結果だったのでしょう?
答えは1400kcal相当の食事では、たとえスープC、であっても体重は増えていきます。
1400kcalというと、危なくないダイエットをしているといったような状態なので、今回の実験でもはじめの1か月は順調に体重が減りましたが、そこから先は上がっていきます。
これが今、一般的にやられているダイエットで、全てをバランスよく食べることがベースにあるため、ご飯も食べ、おかずも食べますが、全体として400~500kcal程度は減らして蒸し物を多くして油を使わないようにするといったような内容です。
このようなダイエット法では、長く続ければ続けるほど、体重が増えていってしまうことをこの実験のデータは物語っています。多くの人が信用している「カロリーを制限すればその分だけ痩せていく」というのはあくまで定量的なダイエットな理論です。
どのような科学者も医学者も一日400kcalカロリーの制限を1か月行った時には「400kcal×30日=12000kcal」という計算式を立てます。脂肪は1gあたり約9kcalのエネルギーを持っていますが、細胞には水と脂肪が半々程度含まれているので、4.5で割って何gの脂肪が12000kcalで燃えるのかということで、計算をしていきます。
この計算では、大体一か月で2kgは痩せていくだろうという結論になります。初月に2kg、そして翌月に2kg、さらにその翌月も2kgと、長く続ければ半年で12kg程度痩せるのではないかという理論上の数値が出てきます。ところが理論と実践は違います。
実際に、これに基づいたバランスのとれた栄養と安全なカロリー制限のダイエットを行っても、最終的にリバウンドが起こって体重が増えてしまっているというこの矛盾を、今の栄養学は解けていないのです。
栄養大学でもダイエット講座を開いていますが、1か月で終わってしまうので、その時には2kg程度体重が減りますので、それ以降も同じように減っていくと仮定しているために2か月目からのデータは無いのです。
今の栄養学の問題点は、ヒトを使った実験をしないこと、動物実験であっても2週間以上の実験をしないことです。なぜそれをしないのか?
今回のスープCの実験では、ネズミはヒトとの寿命の割合から72日間の実験でヒトの1年に相当する期間の実験をしましたが、費用は1000万円ほどかかりますので、まずコストの問題があります。もう一つは72日間も動物の栄養や状態の管理などをきっちり行える根性のある科学者がいないということがあります。
ですから1400kcal食では、続けるほどリバウンドが起こるというデータについてはほとんどの研究者が知りませんし、分かろうともしないのです。
それに対してスープC、50(1100kcal)食では、1年を通して体重が減少しています。
しかしこれがスープCではなく一般食の1100kcalでは、初期に体重減少が見られても、一定の期間を過ぎると頭打ちになって継続して体重が減ることはありません。
一般食とは、炭水化物、脂質、タンパク質がバランスよく含まれている食事を指していて、同じ1100kcalでも停滞期に入るとそれがずっと続いてしまいます。
その理由は、ダイエットでも一見バランス栄養食の方がよく見えますが、炭水化物を摂ってタンパク質の割合が減っているので、基礎代謝(体温)が下がり、結果的に脂肪の燃えにくい体になっていってしまうからです。これでは単に冷え性になった状態に体が馴染んだだけで、いくら1100kcalまでカロリー制限をしても、体重は減りません。
このことからも分かるように現代栄養学は1400kcal食の弊害を分かっていないのです。大学病院などで1400kcal食は最も好まれる方法ですが、これが実は一番危険なダイエットだという認識を持たなければいけません。
なぜ1400kcal食が危険なのか、それはアドレナリンが出続けることにあります。すなわちお腹が空いた状態がずっと続くということです。自分が食事に不満足だとダイエットは辛いものになってしまいますが、その原因はアドレナリンの量が大きく関係しています。その中でスープC、50(1100kcal)に抑えた食事では、アドレナリンの分泌が少ないため、辛くなくダイエットができます。
したがって中途半端なダイエット(1400kcal)が最もアドレナリンの分泌を増やして、ストレスを高めてしまうということがこの動物実験で明らかになっているのです。
この事実を世界中の栄養学者が気づいていないのです。より安全でより長期間続けられるダイエットとして未だに1400kcalダイエットを推奨しているのです。
■脂肪を燃焼するための体のスイッチが切り替わるかどうかが重要
今までの人間の歴史は、99.9%が飢餓の時代です。それをずっと生き延びてきて今があるわけです。飽食の時代になったのは1970年ごろになってからです。それ以降に生まれた人や戦争を体験した人たちがたくさん食べるようになってからアルコール中毒症、糖尿病、高血圧、心筋梗塞がものすごく増えるようになりました。
私は社長の方たちと対談することが多いのですが、「私たちの世代がこれだけ三大成人病になるのはやはり戦争中にきちんと食べなかったからですか?」という質問を受けた時に、私は「それは違います」とはっきり言いました。私たちの細胞は長い物でも1年以内に全てつくりかえられていますので、食べなかったことが問題ではありません。逆に食べ過ぎが問題なのです。
ずっと飢餓の時代を生きてきた私たちは、高効率のエネルギーである脂肪をいざという時のために蓄えておきなさいという情報がDNAに刻まれています。ですから美容のために脂肪を燃やしたいと頭で思っていても、体はそれをしたがらないのです。
したがって脂肪が本格的に燃えるのは、飢餓状態になってからでなければなりません。1400kcal食では、カロリーが中途半端なので、脂肪が燃えるスイッチが入らないのです。これは飢餓ではないという体の判断から代わりにアドレナリンが分泌されて、脂肪ではなく、肝臓に蓄えてあるグリコーゲンを使ってエネルギーを供給します。また備蓄してあるコレステロールも血液中に出るようになり、肝臓が傷めつけられます。このコレステロールは短期間には燃焼しないので、血管に溜まってしまうものです。
アドレナリンが分泌されている状態は、イライラして目つきは悪くなるし、脂肪は燃えないし、動脈硬化は進むし、良いことはありません。
このことから分かるようにダイエットを行う上で最も重要なのは、体が飢餓の状態にスイッチが切り替わるかどうかなのです。
私たちの科学は、未完成品であり、冒頭にお話しした糖尿病食や1400kcal食の弊害について認知されるまでにはまだ多くの時間がかかるかもしれません。やっとアルコールと普通の食事のカロリー交換表が見直された程度です。
では、どうすればこのような問題をクリアして、健康的で効果的に脂肪を燃焼することができるのか?答えは簡単です。
スープC、50を与えたネズミは、非常にアドレナリン分泌が少ないのです。これはとても不思議なことで、普通食を食べた時よりも少なくなっています。これは脂肪燃焼のスイッチが完全にONになったことを示しており、蛇口を捻って水がジャージャーと流れるように、塊だった脂肪が液体になって血液中に流れ込んでくることでエネルギーとしてどんどん燃焼されるのです。
この状態(体が飢餓を認識する状態)をつくるには1100kcal食を4~5日以上やらなければいけません。脂肪燃焼のスイッチが入らない1400kcal食では、グリコーゲンをブドウ糖に変換して賄うのですが、2時間程度で枯渇してしまうので、低血糖になり、めまいがしたり耳鳴りがしたり、目がかすむといった状態に陥ります。これを補うためにアドレナリンが分泌されてさらに肝臓からグリコーゲンを供給しようとするのです。
それに対してスープCの高タンパク低糖食は、このような体へのストレスが限りなくゼロに近い最も合理的で科学的なダイエット方法なのです。
また血清中の中性脂肪量に着目してみると、普通食ではもちろん高い状態ですが、一般食で1100kcalにしたとしてもあまり減ることはありません。しかしスープC、50食だけは大幅に減少が見られました。この差は、食事の質がどれほど大事であるかということを示しています。一般食で1100kcalを摂るということは、どうしても糖質を食べるということになります。糖質を食べるということは、飢餓の代謝のスイッチは入らないので、摂取した分の糖質を燃やしてから脂肪が燃えるので、血清中の中性脂肪はほとんど変化しません。
ですからカロリーを減らせば、必ず中性脂肪が減るということはないのです。
中性脂肪が高い状態が続けば、それが血管にこびりついて動脈硬化の原因になります。このようにコレステロール、中性脂肪などが血管にこびりついてしまうと多くの場合取り除くことはできません。
しかしスープC、50の食事をすれば、脂肪燃焼にスイッチが入っているので、体脂肪よりもまず先に血清中の中性脂肪、コレステロールが使われ、気づかないうちに血管にこびりついたものが燃えて血管を健康に保つことができるのです。
もしスープCが手に入らない場合でも、高タンパク低糖食をすれば大丈夫です。どうしても甘いものを食べたい場合は、ダイエットシュガーを使ったり、0calのお菓子など食べることでコントロールすることができます。
■1100kcalダイエットは全く危険ではない
従来の考え方では、基礎代謝よりも低い1100kcalまで摂取カロリーを下げることは、健康面から考えて危険であると多くの栄養士の方が言いますけれども、もし本当に危険であれば、細胞を構成しているタンパク質量が不足しているはずです。しかしこの動物実験で、1100kcal食を続けても、血清中のタンパク質、アルブミン量は一般食を摂っている時となんら変化は見られませんでした。その理由は一日60g、男性であれば70gぐらいのタンパク質をきちんと摂っているためです。
またカルシウム、カリウム量にも変化は見られませんでした。与えているエサの量は半分になっているにも関わらず100%の一般食と変わらない数値が出ています。これは1100kcalで充分必要量が足りるように体ができているからなのです。したがって1100kcal食をしてもカルシウムが不足して骨密度が低下する心配はありません。
血糖値に対するデータでも1100kcal食は低血糖になることになく、安全な数値を保っていました。さらにインスリンの分泌の値はスープC、50食が最も少なく、膵臓への負担を軽減して余分な脂肪の蓄積を抑えることもできました。
糖尿病の治療に最も有効な食事はこのスープC、50食であるということがよく分かります。
脂質代謝が行われた時には、代謝産物としてケトン体が生じますが、これが体を酸性化して良くないと言われています。スープC、50食では、血清中のケトン体の量が一般食100の4~5分の1以下になります。ケトン体が多くなると骨の末端が溶け出すので、痛風になりやすくなります。痛風の方はスープC、50食を続けることが効果的です。
■正しい食事は薬よりもはるかにパワフルな治療法である
このように見ていくと、様々な病気はこの食事法で良くなるということがお分かりいただけると思います。肝臓病、高血圧、高脂血症、痛風、心筋梗塞、アトピーが同じ食事法で改善していくのです。微量な栄養素をきちんと摂れていれば、食事はとてもパワフルな治療法になるということです。しかし、それが全く世の中に浸透していないのが現状です。
現代の医療は、検査をして薬を出すというコンピューターのような作業になっています。これは救急の外科手術のようなものを除いた慢性の疾患については、コンピューターでも医師と同等またはそれ以上のことができしまうということです。
その中で食事はまだ多くの可能性があるのですが、マスコミに対する力が弱いために、正しく広まっていないのです。
■運動機能にも食事が関わっている
高齢者に多く見られる尿失禁は、下腹部の筋肉が衰えてしまっているために起こるものですが、このような筋肉の衰えを抑えて、最大限に筋肉の発達を促すための食事がやはり高たんぱく食なのです。このような食事をした上で、縄の無い縄跳び運動をするだけでどんどん筋肉量が増えていきます。
なぜ縄跳び運動が良いかと言うと、高齢になると自然と重心が後ろになりがちですが、縄跳び運動を行うと自然と重心が前になり下腹部に力が入るようになります。
後ろ重心では転倒しやすくなるので、前重心にしていくことでバランス感覚も良くなります。
最近では子供も重心が悪くて転倒することが多く、その際に手のつき方が悪く腕を骨折する場合もあります。このようなケースでも縄跳び運動は有効です。
■スープCと骨密度
最近では、無理なダイエットをした結果、若くして骨密度が低下している人が多く見受けられます。ではスープCダイエットはどうでしょうか?
驚くことにスープC、50食を与えた群は、一般食を含めた他のどの食事よりも大腿骨の骨量が多かったのです。これは従来の栄養学では考えられないことです。カルシウムの摂取量が半分になっているにも関わらず、骨密度が高くなっているのですから。
この摩訶不思議なデータについては、なぜこのような結果になるか分かっていませんが、現段階で考えられることとしては、スープC、50食を与えた群は高タンパクで筋肉の発達が良く、体も軽いので、最も活動的だったということが挙げられます。
食事量が多い群は、寝ていることが多かったのですが、スープC、50食は良く動いていました。結果的に良い骨密度に繋がったと考えられるのです。
高齢者で最も注意しなければならないのが骨折ですが、多くの方が食事の重要性に気づいていないので、つまみ食いような食事の仕方になったり、甘いものを食べ過ぎてしまうことがあります。
甘いものを食べると、ブドウ糖に変わるためにTCAサイクルという完全燃焼経路に入る際に、ビタミンB群が非常に多く消費されます。もしこの時にビタミンB群が不足していると、不完全燃焼になるので乳酸が生じます。乳酸が増えると体は酸性に傾きますので、体は骨に含まれるカルシウム、重炭酸ナトリウム(重炭酸塩)を血液中に溶かし出すことで中和しようとします。それによって酸性化を抑えながら乳酸を腎臓まで運んで、尿として排泄します。
その結果、炭水化物を多く摂る人(カロリーを多く摂る人)は骨が溶け出すので、骨が弱くなります。また重炭酸ナトリウムは尿で排出されますが、カルシウムは排出されないので、血液中に残り、血管壁に付着するので、動脈硬化を進行させます。
ビタミンB群を多く含む食材としては、切り干し大根や干しシイタケなど乾物類、豚肉、玄米などに多く含まれています。
乳酸が溜まるとむくみや肩こりが起こります。このような症状のある方は、ビタミンB群を多く摂るべきです。エビオスは安くて歴史のあるビタミンB群サプリメントでお勧めです。また食物繊維を多く含む食品を摂ると、腸内の善玉菌のエサになるので、腸内環境が良くなります。腸内環境が良くなると、善玉菌がビタミンB群をつくるようになるだけでなく、便秘なども解消されます。スープCにはビフィズス因子が入っており、腸内細菌叢を良くしていきます。
■糖質を摂りすぎると脳もむくむ
非行を繰り返す子供たちは、清涼飲料水を大量に飲んだり、甘いもの、カップラーメン、スナック菓子を習慣的に食べているので、カロリーが炭水化物系に偏っている上にビタミンB群を含む食品が不足しているので、全身がむくんでいます。そして最終的には脳がむくみます。大脳に乳酸が溜まるとそれを中和するためにむくみが起こるのです。
このように脳にむくみが生じると記憶障害やうつ病、被害妄想、うそをつく、キレやすくなるなど様々な精神疾患が起こってきます。これは今まで言われてきたアルコール中毒症の症状と同じです。
Q&A
Q:今までの間違ったダイエットや運動不足で基礎代謝が下がり、スープCダイエットの1100kcalと釣り合ってしまって体重に変化が見られない場合はどうすればよいですか?
A:代謝を上げるためには、まず汗をかける状態をつくることが重要です。そのためにお風呂の入り方を工夫して、朝晩で汗をかくようにしてもらうようにする、またはウォーキングで1万歩程度歩いていれば、スープCの高たんぱく食で自ずと筋肉が付いて代謝が上がっていくので、脂肪が燃焼していく体になっていきます。
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赤坂の夜
森柾秀美先生inビューティーワールドジャパン2015
ヌーヴェルエステティック アカデミ‐渋谷学院 2期生卒業式
第23回 症例発表会 会場投票結果発表
第23回 症例発表会 会場投票結果発表
第2回 菅原明子先生 レベルアップ研修
2015.5.13 冷えを考える
2015年5月13日(水) 10:30~12:00
アイオワ州にティットマンという生理学者がおり、20年前にある研究を行っている。
それは40㎝四方で高さ50㎝の箱にライ麦の種を植え、4か月後に約20cmに育ったライ麦に張っている根は合わせるとどれくらいになるかというもので、1本にまとめると11200㎞にもなったという。この実験で言えることは、見える世界と見えない世界があるということで、見える世界とは20㎝のライ麦で、見えない世界とは、その20㎝を支えるために11200㎞が必要であるということで、もしライ麦がもっと育てばこの距離は一層長くなるのである。
現代は、見える世界ばかりが信じられ、科学に過信する、技術に過信するといった状況が、見えない世界があるという感性を鈍らせている。
人の体に置き換えると、代謝は見えない、熱は見えない、どんどん見えない世界に気づかない人間が多くなっているのである。すなわち寒く感じなければ冷えていないのかということである。
私は平成7年にある講演をしたが、その時に「察しの文化と言葉の文化」ということについて触れた。例えば人と話していて「この人は今こういうことをして欲しいのだな」「この人はこれを伝えたいのだな」などと察するということが現代は全く無くなっており、全て言葉にしなければ伝わらないという文化になってきているのである。
これは見えないものを感じ取れなくなり、実際に聞こえるものを通してしかわからなくなってきているのである。今回お話しする「冷え」は見える世界と見えない世界の最たる例である。
・「冷え」と「冷え症」は違う
世の人の多くは、自分に冷えがあるとは感じていない。それは薄着の生活、エアコンの生活に慣れているからである。しかし実際にサーモグラフィで我々の体の温度分布を見ると例外なく足元が冷えている。
心臓を中心に37℃ある上半身に対し、下半身は下に行くほど低く、足元は31℃、足指の皮膚温は30℃を下回ることも多い。足元と上半身では6℃前後の差がある。こうして体の上下の温度差ができてしまった状態が「冷え」である。
「冷え症」とは、この温度差が大きくなり、手足の冷たさを自覚している状態のことである。大体8~9℃の差ができてくると、「症」の領域に入ってくる。生命維持のために重要な臓器のほとんどが上半身に集まっている。心、肺、肝、膵、そして脳もこれらは24時間働く発熱器官である。
当然、頭や躯幹はこれらの発する熱を受け、体温低下しにくい。下半身はその逆である。
「冷え」は誰にでもあるものだが、冷え症になるかならないかは、本人の努力次第なのである。
人間は、1日の内、16時間は起き上がった状態であり、重力に逆らって血液の環流も悪い。
「冷え」は全く性別と関係なく発生する。
しかし「冷え症」は圧倒的に女性に多い。これはまさに日常の男女のホルモン分泌の差によって生じるのである。さらに女性の場合は、更年期に入りホルモン分泌が減少すればするほど、自律神経のメカニズムを介して、それなりに「冷え症」が加速する。
ある体育大学の調べでは、立っている状態での深部静脈の血流は1秒間に8~10㎝重力に逆らって心臓に向けて上がっていくが、座っている時では5㎝になってしまう。さらに座って30分経過するとそれが2.5㎝になるという。これは股関節、膝で血管が折れ曲がり、血流が阻害されるために起こる。電車に乗った時にも、立っている人と座っている人では全く血液の流れ方が異なるのである。
冷えの存在は、「血液の還流が悪い」という物理的原因とそれに伴う体温低下による「血管収縮」の2重の要因の結果である。それによって酸素、ブドウ糖、ホルモンなどの運搬量低下、老廃物、疲労物質の蓄積が起こる。
結果、細胞の機能低下:臓器の機能低下、免疫力の低下:感染、発ガンのリスク上昇
・「ほてり」とは?
ほてっていれば「冷え」がないのか?
ほてっていれば体温が高いのか?
答えは全く逆で、低体温である場合がほとんどなのである。
だが多くの人はそれを勘違いしている。
まず「日常から体を冷やすような服装、食事、生活習慣をしているので、冷えに慣れっこになり、冷えを感じるべき本能が働いていない」ということを認識すべきである。
どんなに低体温の人であっても35度程度の体温はあるはずなのに、気温が25度でも暑がるということは体内と体外の温度差を考えても異常なことであり、これはまさしく「ほてり」なのである。
人間の体には恒常性(ホメオスタシス)を保とうとする能力、働きがあり、冷え(上半身と下半身の過剰な温度差)が進むと血流不全によって組織が壊死に向かうのを是正しようとして何とか血流を増加させ各細胞に酸素やブドウ糖を運搬しようとして、体はあらゆる試みをする。
本来は筋肉を動かし、発熱させ、血管を拡張させ、そして血流を増加させ酸素やブドウ糖を供給しようとするのが本筋であるが、それをやっていないから冷えが進むわけで、こうゆう状況下において行われる恒常性を保とうとする体のメカニズムは一時的な、緊急避難的な「血管拡張」(毛細血管の)なのである。もちろんこれは根本的な血流改善につながらない血管拡張である。
血管が強制的に拡張するので、少し赤ら顔になるし、血流が増した分温かく感じる訳であるが、熱を産生することで血管拡張した訳ではないので、温かく感じたことを体温が高いと解釈するのは正に間違いなのである。これが「ほてり」である。
寒い時には立毛筋が緊張して毛穴を締めることで皮膚から熱が逃げるのを防ぐ反応が起こるが、これは防衛反応として正常なものである。
しかし、さらに温度が下がると自分の意志とは関係なく筋肉が収縮して熱を作り出そうとする「ふるえ」が起こる。これは低体温によって生命の危険を感じた身体が行う体温低下に対する究極の反応なのである。
それに対して「ほてり」は冷えに対する究極の反応である。
所詮、血管が拡張したところで、血管内に存在する血流は古血、すなわち滞った血流が大半である。そこに強制的な血管拡張によって、一部新しい血液が送り込まれ皮膚の赤みが増し、暑く感じる。
「ほてる」という表現は思いがけない時の熱感であり、発赤である。思いがけない時=さして気温の暑さを感じない時。
外気が高くないのに、例えば冬でも暑い、暑がりと言っているのは単にほてりのことが多い。私たちは恒温動物なので、冬でもどんなに体温の低い人でも35度はある。一方、気温は一ケタ台の時もある。寒く感じるのが当たり前なのに暑がること自体が異常なのである。
・結
今回の内容でご理解頂けたと思うが、一言で体温と言っても重力と血流まで加味して、その詳細を捉えてみると、上半身と下半身でかなりの差が生じることがお分かりいただけたと思う。もしかすると下半身の温度が低くても上半身(躯幹)の体温が高ければ、それなりに上半身の免疫、躯幹の免疫は保たれるのではないかと考える方もいらっしゃると思うが、そうはいかないのである。
上半身と下半身は必ず繋がっているもので、血流が悪く、滞った古血は、少しずつではあるが必ず心臓に戻り、そのために上半身に上ってくるものなのである。この滞った冷えた血液は確実に老廃物、疲労物質の濃度が高く、それらが上半身に戻ってきた時、上半身、躯幹の血液の酸性化にもつながるのである。
安易に上半身、下半身を切り離して考えるわけにはいかないのである。
・月経周期
女性ホルモンには卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類があり、卵胞ホルモンは月経が終わった頃から急速に増えて排卵期になると200~400ピコグラム分泌され、それをピークに分泌が低下し、21~22日目に再び150~300ピコグラム程度の山をつくる。
それに対し黄体ホルモンは排卵の時までは全く分泌されず、排卵の後から1週間後くらいに10ナノグラム程度分泌され、月経の時には0になるというパターンがある。
なぜこのようなパターンになるのか?それは月経の時に剥がれ落ちる子宮内膜と深い関係がある。これは畑の土と同じで、種を蒔いて花を咲かせる時に薄い土では根は張らない。
通常では約1㎝の土(内膜)がつくられるが、これが8㎜では根は張らない(着床しない)。そのためにこのような卵胞ホルモンの分泌量の波をつくってきちんとした土壌をつくるのである。
次にもし良い土壌があったとしても、その土がカラカラになっていたらどうだろう?
これもまた根は張らない。この土に水分を与えるのが黄体ホルモンの役目である。
従って排卵以降の高温期では、子宮内膜が浮腫によって約1.3㎝に肥厚する。
これらの作用によって、受精卵が着床しやすい環境がつくられるのである。
もしここで妊娠が無ければ、その土壌は全て洗い流され(月経)、また新しい土壌がつくられるのである。
これらのメカニズムは普段目にすることができないため軽視されがちだが、非常に重要なことである。それを忘れると、生理痛と言えばすぐピルを使うようになってしまうのである。ピルを使って薬で分泌をコントロールすれば、体に本来備わっているこの分泌リズムが崩れてしまうのは目に見えている。長期にピルを使用した人では体が女性ホルモンの分泌パターンを忘れてしまっており、これを思い出させるにはトレーニングで2~3年かかるとも言われている。
卵胞ホルモン、黄体ホルモン共に卵巣から分泌されるが、その指令を出しているのは脳下垂体から出る卵胞刺激ホルモン及び黄体刺激ホルモンである。ここにはフィードバック機構があり、指令を受けて分泌された卵胞ホルモン、黄体ホルモンは血流に乗って脳下垂体にも運ばれる。この時に脳下垂体のセンサーが、命令通りに十分に分泌されていると認識すると、分泌が抑えられるのである。毎日ピルを飲んでいると、脳下垂体は十分に卵巣からホルモンが分泌されていると感じ、自分でホルモンを出そうとする機能は顕著にていかしてしまうのである。
黄体ホルモンには、体温上昇作用があり分泌が高い時には高温期になる。それに対して学術的には卵胞ホルモンには体温低下作用があるため、分泌のピークで最も体温が低下したところを排卵日と予測している。したがって女性は月の半分は冷えやすいとも言えるのである。
・更年期症状について
閉経によって卵巣からホルモンが出なくなる
↓
フィードバックシステムによって脳下垂体からホルモン分泌の命令が出続ける
↓
司令塔である視床下部の半分はホルモン中枢であり、もう半分は自律神経の中枢であるため、過剰な命令が自律神経にも影響を与える
↓
1.それにより血管コントロールがうまくいかなくなり、ほてりや頭痛等の症状が出る
↓
2.また、ネガティブな考えや不安、悩みといった大脳からの影響によって自律神経バランスが崩れるといった要素もある。
↓
3.卵胞ホルモンは動物学的には発情ホルモンであり、気持ちが高揚する。
閉経によってこのホルモンが出なくなれば、気分の落ち込みが起こり、欝のような症状が出る
更年期の症状が起こる原因には以上の3つの原因がある。
Q&A
Q:お客様の中に冷えを訴える人は多くいて、手足が冷たかったり、ほてっていたりとどちらも体が冷えている状態であるということだが、どちらが重症といった区別はあるのか?
A:上半身、下半身の温度が8~9度以上差がある場合は、緊急処置として血管が拡張するため7度程度であれば、収縮して冷たいのかもしれない。
足先の温度が27度以上なのか、以下なのかがほてりと冷たくなる状態の境であると言えるのではないか。そういった意味では収縮している人の方が冷たいという自覚があるため、まだ良い状態と言える。
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