渡辺肇子先生レベルアップ研修 「冷えと免疫」
2015.2.4.(水) 11:00~13:00
(薬剤師 NPO日本メディカルハーブ協会理事)
@エルクレスト・アカデミー セミナールーム
テーマ:「冷えと免疫」
〈冷えとは?〉
西洋医学には「冷え性」という病名はありません。何かの病気があり、その影響で冷えが起きている場合には、原因となっている病気の治療を優先し、冷えそのものの治療はあまり行われないのです。
女性は特に、自覚の無い冷えがあることが多く、自分は冷え性ではないと思っていても注意が必要です。
「冷え性」とは、特別な病気がないのに手や足が冷えるものの総称で、はっきりした病気ではないため、西洋医学では適切な対応ができません。したがってメディカルハーブや漢方などの代替医療が得意とするものであるといえます。
見た目では顔や舌が白くなっている、無意識に季節にそぐわないほどの厚着をしているなどの特徴があります。
・冷えは万病のもと
冷え性とは、単に体が寒いという状態だけを指すのではありません。一般には下半身が冷えることが多いのですが、寒さを自覚しない冷え性もあります。女性に多く見られる冷え性には、腰から下が冷たい、手足の指先が冷たい、顔はのぼせているのに足が冷たい、など色々な症状の現れ方があります。さらに冬になると暖房によって温められた空気が天井に集まって床が冷え、室内が寒い状態になります。
冷え性には、頭痛、肩こり、腰痛、風邪、神経痛、さらに月経痛、月経不順など様々な症状を引き起こします。それは冷えが痛みを強くしてしまうためです。
また体温が1度下がると免疫力が約30%低下し、逆に体温が平熱から1度上がると500%増加すると言われています。この事実は、がん治療などでも生かされており、体温を高めることでインターフェロンやインターロイキン、腫瘍壊死因子といった免疫物質より活性化させて治療効果を高めています。風邪もウィルスはDNAやRNAをタンパク質の膜で囲んだだけの簡単な構造であるため、熱に弱く、発熱することで、不活化させることができます。
・冷えの原因
冷えの原因は全身の血液循環が悪くなって、下半身が冷えたり、身体の上下の温度差を調整できなくなった結果の症状と考えられるため、血行を改善することを優先します。
またストレスが冷えの原因になっていることもあります。ストレスを感じると交感神経が優位になり、筋肉の緊張が高まって血管が収縮し、血液の流れが悪くなるのです。
〈漢方で考える冷えとは〉
・気、血、水(津液)のはたらき
「気」:人体の構成と生命活動の最も基本になるもので、推動作用(ものを動かす)、温く作用(体を温める)、防御作用(外邪の侵入を防ぐ、免疫)、固摂作用(漏れや下垂を防ぐ)、気化作用(ものを変化させる)といった働きを持っています。
「血」:身体の校生と生命活動を維持するための基本物質の一つで、全身に栄養を供給し、潤す働きを持ちます。また、精神活動の主な基礎物質でもあります。
「水」:体内にある正常な水分のことで、各臓器、組織、器官内の体液と分泌物を含みます。全身を潤して、栄養を与え、運搬、代謝、排泄に関わります。
・冷えの症状
①
消化器が弱い → 冷たいものを摂り過ぎたり、脂っこいものを摂ったりすると、お腹を壊す特徴があります。消化器を丈夫にするために「気」(生命の大本のであるエネルギー)を食べたものから取り入れることを心がける。
②
お手洗いが近い → 腎臓や膀胱の働きの衰えがあり、余分な水分が溜まり、むくみ、冷えの原因になるため適切な水分量を保つために「水」を外に出すことを心がけます。
③
月経不順、月経痛がある人→婦人科系の器官が弱くジンジン冷える場合は「血」の流れを改善することを心がけます。血は頭の働きにも、関わっており、「頭に血がのぼる」という言葉は、東洋医学的な表現で、怒りやすくなる、悶々としている状態になっていることを示しています。
簡単なチェック方法:舌を出して5~10秒ほどすると、青みがかってくる場合は、血の状態が悪いといえます
④
冷えとのぼせが混在する人→「気逆」が原因のため、頭寒足熱を心がけます。
・気血水弁証
前述の4つのタイプをより細かく分類して、対処法を探っていきます。
○気虚:気の不足によって起こる→冷え
気は朝つくられるとされており、朝体を動かしたり、朝食をきちんと摂る、きちんと休養することで気を補う必要があります。
○気陥:気虚証が進み、気化作用が落ち込む
○気滞:気の活動が阻まれ、停滞する
○気逆:気滞の一種で、気が逆方向へ上昇する→冷え
この場合、服装や温め方を工夫して気を下げる努力をします
○血虚:血の不足によって、栄養不足となり潤いが不足する
○瘀血:血の運行が失調して停滞する→冷え
お風呂上がりや朝に腰周りを動かす、動物の内臓を摂るようにすることで巡りを良くしていきます
○血熱:血に熱邪が侵入する
○血寒:血に寒邪が侵入し、血行障害などを起こす
○津虚:水の不足によって、全身や臓腑の湿潤、栄養の失調を起こす
○水滞:水の過剰や停滞によって起こる→冷え
利尿を心がけることで、停滞を防ぎます。ハーブではリンデンやジャーマンカモミール、エルダーフラワーなどフラボノイドを多く含むものを摂ると余分な水分が出ていきます。
〈免疫について〉
・免疫学の歴史
今から約2000年前の古代ローマ時代から免疫の考え方は存在し、「ペスト患者の治療はペストに罹って生き延びた人が行う」という取り決めがあったそうです。
18世紀のイギリスでは、牛痘にかかった人は、天然痘に罹りにくいということを経験で知っていたといいます。
エドワード・ジェンナーによる「一度罹った病気には罹りにくくなる」、種痘法の発見。
病原菌の発見、弱毒化現象の発見、北里柴三郎、ベーリングによる抗体の発見などで免疫学が発展し、抗体の起源、多様な抗体の作成方法が進歩していきました。
・免疫とは
疫病を免れるとは「ある感染症から回復した人は二度と同じ病気に罹らない」という経験則に由来します。生体が自己と非自己を認識し、非自己のすべてを排除する反応と言えます。排除するものは最近やウィルスなど外界からの異物だけでなく、老廃組織やガン化した細胞など、変異した自己の成分も含まれます。
・免疫の持つ性質
○多様性:抗体やT細胞抗原レセプターは10の10乗以上ある
○自己と非自己の識別:自分を構成する成分とは反応しない
○特異性:抗体やT細胞抗原レセプターは、抗原のわずかな構造変化を見分け、特異性の高いものにしか反応しない
○記憶:一度侵入した抗原を長期間記憶している
・抗原と抗体
抗原は「単独で抗体産生することができるもの」と定義されます。通常、最初に免疫系を刺激する物質です。生体成分以外のすべての非自己は、抗原になる可能性を持っています。例えば、微生物、分子量1000~2000のペプチド(タンパク質の小さいもの)、多糖類、核酸などです。ペニシリンアレルギーなどを除いて医薬品でアレルギーを起こさない理由は、薬品の分子量がより小さいためです。
抗原とは、抗体(グロブリン)が結合する分子のことです。抗体分子は、抗原分子の特定の部分構造と結合しますが、この特定部分を抗原決定基(エピトープ)と言います。
人の免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgE、IgD、IgAの5つのクラスに分類され、さらにH鎖の構造の差異によってサブクラスに分けられています。
・自然免疫と獲得免疫
○自然免疫:皮膚や粘膜の障壁や食細胞による食作用などの非特異的防御機構で、感染の繰り返しでも抵抗力が高まることはありません。可溶性物質として、補体、リゾチーム、インターフェロン、細胞としてマクロファージ、NK細胞があります。
○獲得免疫:侵入した異物を非自己として認識して、新たに獲得した異物排除のための特異的な防御機構で、感染を繰り返すと抵抗性が高まります。可溶性物質として抗体、細胞としてT細胞があります。
・免疫に関係する器官
すべての免疫細胞は、高分化能を有する造血幹細胞から分化します。造血幹細胞は、骨髄に局在しています。免疫に関わる細胞同士は、サイトカインという生理活性物質を使って、お互いに連携を取り合っています。骨髄でつくられた細胞は、喉元にある胸腺でトレーニングを受け、正確に自己と非自己を見分ける能力を身につけたわずか数%がT細胞として、異物と戦うエリートとなります。また免疫に関わるものとしてリンパ管があります。血管のように全身に分布していますが、節があるという特徴があります。リンパ管は死んだ細胞や外界から取り込んだウィルスを流す下水路の役割をしており、リンパ節は、それが全身に回ることがないように関所として働くという役割があります。体内に数百個あると言われています。
・アレルギーとは
異物を排除しようとする生体の免疫反応が、過度または不適切な形で起こり、組織傷害を起こすことをアレルギーといいます。一般にアレルギーとは、抗原侵入後、数分から数十分以内に症状の起こる即時型(Ⅰ型)アレルギーを指します。
広義のアレルギーは、異物として認識される抗原に対する免疫系の過敏反応を全て含み、Ⅰ~Ⅳ型に分類されます。
アレルギーの中で最もメジャーなものはIgEが関わるⅠ型アレルギー(アナフィラキシー型)で、これは元々寄生虫に対する免疫システムで、昔は寄生虫がヒトの体内に多くいましたが、最近では、少なくなったことで今まで反応しなくてもいい花粉などに反応してしまうようになってしまったのではという説もあります。
分類 |
原因 |
症例 |
Ⅰ型 |
アレルゲンが体内に侵入すると、IgEがつくられ肥満細胞表面のレセプターと結合する。アレルゲンがこのIgEとブリッジ状に結合すると、肥満細胞からケミカルメディエーターが合成され、放出されて炎症が起こる。 |
蕁麻疹、花粉症、気管支喘息、アナフィラキシーショックなど |
Ⅱ型 |
生体自身の細胞や、組織に結合した抗体が補体系を活性化することにより、生体に障害を与える。 |
特発性血小板減少性紫斑病、不適合輸血による溶血性貧血、新生児溶血性貧血、自己免疫性溶血性貧血、薬剤性溶血性貧血、重症筋無力症など |
Ⅲ型 |
生体内で生じた抗原、抗体複合体が細胞に沈着し、補体系を活性化させることで起こる。 |
血清病、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、各種糸球体腎炎など |
Ⅳ型 |
アレルゲンにより感作されたT細胞がアレルゲンと反応することによって炎症が起きる。抗体の関与なしに抗原に対するT細胞の反応によってもたらされる細胞性免疫反応による細胞障害。通常、抗原の侵入から2日後くらいに反応が最大となる。 |
接触皮膚炎、ツベルクリン反応、薬疹、臓器移植の際の拒絶反応など |
・アレルギーの発症
体内に花粉などの抗原が侵入すると、骨髄でつくられるB細胞で抗体がつくられ、肥満細胞の細胞膜に特殊なタンパク質ができます(感作)。細胞は抗体を細胞膜に付けることで抗原を待ち受けます。再び抗原が侵入すると、抗体に抗原が結合し、反応してヒスタミンなどの化学物質が放出されます。それにより、毛細血管が収縮し、血中の液体成分が漏れ出すことで粘膜の分泌が亢進し、粘膜が過敏になり、アレルギー症状が出ます。
〈メディカルハーブ〉
・冷えによく用いられるハーブ
ショウガ、シナモン、ジャスミン、ジャーマンカモミール、エルダーフラワー、リンデン、イチョウ、ターメリック
・風邪によく用いられるハーブ
予防:エキナセア
風邪のひきはじめ:エルダーフラワー
咳、喉の痛み:タイム、セージ、マシュマロー、マローブルー
・花粉症によく用いられるハーブ
エルダーフラワー、ネトル、ローズヒップ、ペパーミント、イブニングプリムローズ
・ハーブティーの淹れ方
ティーポッドにハーブを入れ、熱湯を注いで抽出します。効率よく抽出するためにはハーブを細かくし、必ず熱湯を使うようにします。花や葉は3分間、種子や根は5分間抽出します。
・ハーバルバス
布の袋やティーパックにハーブを詰めて直接浴槽のお湯に入れる方法と、別に温浸剤を作ってお湯に混ぜる方法があります。毛穴が開いて、血液循環も良くなり、ハーブの成分が吸収されやすくなります。使用するハーブの種類によっては、保湿や美肌といったスキンケア効果も期待できます。
・蒸気吸入
ハーブには精油など揮発性の成分が含まれています。それらを熱湯で揮発させ上記とともに吸い込むのが蒸気吸入です。鼻やのどの粘膜に有効成分を直接作用させることができるほか、蒸気の温熱による血流促進や保湿も期待でき、鼻やのど、気管などのトラブル軽減に役立ちます。
〈東洋医学での冬〉
東洋医学では、冬は立冬から始まって、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒を経て立春までの3ヶ月を言います。「冬の3ヶ月は閉蔵という。水は凍り、地は裂ける。人は陽を乱さないように、早寝し、必ず日光を待ってから起きる。志を内に潜ませて隠れるようにし、私心があっても抑えるかのように、気持ちを出さないような精神状態にさせる。寒を避け、暖をとり、皮膚を外に現さず、気を外に逃がさないようにする。これは冬の気に応じて蔵を養う方法である。これに逆らうと腎が損なわれて、春になると手足が冷えて萎えるなどの病になりやすい。春の生を体に受けることが少なくなる。」(素問:四気調神大論)
〈冬の養生〉
冬の養生の原則は腎気を衰えさせないように注意することです。また同時に寒さから身を守ることが大切になります。
〈冬の過ごし方〉
○睡眠時間をたっぷり取りましょう
○暖房が強すぎると、汗をかくとともに、蓄えていた気を消耗してしまいます
○エネルギーを蓄える季節にダイエットは控えましょう
○特に、首、足首、腰を冷やさないように温めましょう
○消耗する運動は控えましょう
○なべやスープなどの温まる食事を心がけましょう
○風邪が流行る季節です。柑橘類などからビタミンCを摂りましょう
〈如月の過ごし方〉
暦の上では春とはいえ、まだまだ厳しい寒さが続き、インフルエンザは蔓延する時期です。冬場の風邪は、大気の乾燥で鼻やのどの粘膜が傷つけられ抵抗力が落ちているので、重くて、長引きやすいのが特徴です。
また、こじらせると他の病気を引き起こしかねないので万全な予防対策が必要です。
風邪やインフルエンザから身を守るため、体を温める食材やビタミン類が豊富な食材を多めに摂り、寒さや風邪のウィルスに負けない体力作りを心がけましょう。胃腸を強化し、消化吸収を高めることが秘訣です。