2014.11.12 専任講師 開業医・佐藤先生研修
2014年11月12日(水) 10:30~12:00
テーマ「環境問題とストレス社会」
@エルクレスト セミナールーム
講師は、日本橋清州クリニック院長、佐藤義之先生です
環境問題、資源、エネルギーの枯渇、超高齢社会など、私たちが直面している問題は極めて深刻なものです。これらにどう向き合うべきか誰もが考えなければなりません。
環境問題とストレス社会とは一見関係が無いように見えますが、「時間」という視点から考えると大きく重なる課題や原因が見えてきます。
車はガソリンを燃やして、即ちエネルギーを消費すれば早く目的地に着くことができます。コンピューターも電気というエネルギーを使い、消費し、計算も情報を得る時間も早くなります。そのどちらもがエネルギーを使って時間を速めるものです。エアコンもそうです。
昔では暑くて能率の上がらなかった仕事も、涼しい環境下ではより多くの仕事をこなすことができます。人工照明も同じで、夜も休まず働けることは、その分社会の時間を速めることができます。
結局のところ、何をもって私たちが便利と思っているのかというと、時間を速める事なのです。エネルギーを使って時間を速めることが文明の利器であり、このような社会を作り上げるために莫大なエネルギーが使われています。
そのため今回は時間を環境として捉えた話をしようと思います。
・私たちは恒温動物である
恒温動物とは体温が一定の高さに保たれている動物のことです。体内の代謝、免疫のメカニズムが高温である方が促進されます。高温ということは要するにエンジンをかけっぱなしにしておくことで、それによって体温を一定に保ち、いつでもダッシュできる状態にしておくことと同じなのです。エンジンをかけっぱなしとはそれだけエネルギーを消費しているこということで、ダッシュできるからこそ短時間で事を成すことができる訳で、これは時間を速めていることに他ならないのです。
・恒温動物は「恒時間動物」である
精密機器や高速コンピューターは常に温度が一定に保たれています。そしてその機能、効率を常に維持しているのです。
体温を一定にして時間の速度を常に速く一定に保とうとしているのが、恒温動物であるとも言えるのです。
現代人は、社会の時間を常にスピーディーであるようにいわば高速に設定しているのです。
高速だからこそ少しでも遅い部分があると、たちまち渋滞が発生しますし、それ故に時間だけはきっちり守る必要があり、現代では守るべき最大の社会ルールとなっているのです。
そのためにそのルールが守られなかった時にはイライラしたり、ストレスが溜まるのです。
・さらに私たちは「恒環境動物」である
私たちが恒時間動物であるというお話をしましたが、これがエスカレートすると恒環境動物に進化しつつあると私が考えています。
気温という環境は、エアコンでいつも快適温度に保とうとしているし、いつも仕事ができるように夜も煌々と電気で明るくし、いつでもネットで世界中と繋がる環境を作り出しています。忙しいということは、時間が速いということです。エネルギーを使って環境を整え、一生懸命働くと同じ時間でたくさんの製品をつくることができ、また情報をより多く集められることになりそうするとそれがお金になり儲かるということになるのです。
時は金なり、正にビジネスは時間を操作することなのです。
一方、お金を使ってエネルギーを消費し、それによって時間を速めると限られた時間内に多くの仕事ができ、余暇が生まれてくることも事実です。
1941年のNHKの調査によれば、ビジネスマンの自由時間は、1時間であるのに対し、2005年には3時間に増えています。2時間の自由時間がエネルギーを使う危機によって生み出されたことになります。
そもそも時間は生活に深く関わっているものであり、人間はまさに時間と生きていると言ってもいいのではないでしょうか。
私たちが膨大なエネルギーを使い、機器を動かし時間を速めたことはご理解いただけたと思いますが、どのくらい膨大かと言うと、年間で1人あたり、原油換算で約4000kgです。私たちが食物として食べるエネルギー量で比較してみると、実に40倍だそうです。
体が使うエネルギーの40倍ものエネルギー私達1人1人が使って時間を速めているのです。昔のことを思えばせいぜい薪を燃やしていたくらいですから、体が使う分以外のエネルギーなど微々たるものだったに違いありません。
・時間はまさしく「環境」である
今まで、環境問題と言うと、温暖化、汚染、資源の枯渇などが指摘されてきました。「時間は変わらない」という固定概念から、時間を環境の1つとみる視点は無かったはずです。
しかし時間と言うのはまさしく私たちがその中で生きている「環境」なのです。
ヒトという動物にとって適切な時間環境があるからこそ、今の現代人の大半が社会のテンポが速すぎると感じるのでしょう。エネルギーを消費し、どんどん便利になり、どんどん時間は速くなっていきます。極端な言い方かもしれませんが、これはもう時間環境の破綻なのです。時間をもう少しゆっくりにして、社会の時間が体の時間とそれほどかけ離れたものでないようにすれば、自ずと温暖化もエネルギー資源枯渇問題も解決するはずなのです。故に時間と言う環境は、環境問題の中で最も重要なものとして取り上げられてしかるべきなのに、そういう問題があることすら気が付かない、現代の「時間観」は、非常に情けない話なのです。
速い時間とゆっくりとした時間では「質」が違います。質が違うからこそまさに環境なのです。その時間の中で行動、また経験できることにも違いがあり、生きている質そのものにも時間によって差が出てくると申し上げても過言ではないでしょう。
これは車窓の景色が列車のスピードによって全く違うことと同じです。
「免疫はゆっくりとした時間の中で培われるもの」なのです。
「借金をして、いい船を買えば儲かるのは分かっている。でもそんな事をしたら、こうして夜飲む泡盛の味がまずくなる」 沖縄の漁師の一言
「人」は成長と共に本来の自然界の動物である「ヒト」から外れていきます。「人」とは、人類の歴史の中で作り上げられた文明、文化を背負う私たちを表す言葉です。
「人」の感性は、知識、知恵、そして欲望を基盤に研ぎ澄まされたものであるとも言えます。
時間をゆっくりと、また省エネと言っても、車に乗らないという選択肢は無く、エコカーに乗り換えるのが環境に優しいと考えるのです。
便利さを犠牲にすることはせず、新しい技術で解決しようとします。自分の便利さを手放すなんてことは絶対に考えないのが「人」なのです。
先ほどの車窓の例えではありませんが、東海道を足で歩けばまた全然違ったものに見えるだろうし、時間の速度を変えただけで同じものが違った様相を呈してくれます。そのことによって回避できるストレスは実に大きいはずです。
・環境問題と免疫力低下
ストレスが大きくなれば、免疫力が低下するので、この表題も当然ではないかと思われるかもしれませんが、この追加の表題は、全く視点の異なる問題なのです。
一言で言うなら私達「恒温動物」の質の低下です。私たちは常に一定の高さに体温を保っている動物ですが、それ故に代謝や免疫システムも常に活性化され、いつでもダッシュできる状態であることを申し上げました。
このことからも分かるように質の低下とは、常に一定の高さに保たれているはずであった体温の低下を表しています。体温が下がると免疫力は確実に低下します。
恒温動物であることに変わりはありませんが、問題はその温度、体温レベルが下がったことなのです。恒温動物が「恒時間動物」となり、さらに「恒環境動物」へと進化するにしたがって、皮肉にも免疫力維持にとっての必要条件が崩れ始めてしまったのです。
体表的なものはエアコンと車です。湿度が0に近いエアコンの風は、我々の体から気化熱として体温を奪い、さらに車に乗ることで、ガソリンというエネルギーを消費する一方で自らの筋肉が発生するエネルギー、熱はことごとく減少させてしまったのです。
現代は、成人の3人に1人がその平均体温が35度代だそうです。
免疫学的に望ましい体温、本来の恒温動物として望ましい体温は36.8度で、体内の酵素活性、またリンパ球の1つであるNK細胞の活性が上昇するのは37度からなのです。
なんと20年前の日本人の平均体温は36.8度だったそうです。これは医学大辞典に記載されている事実です。
しかし現代人はどうでしょうか?
36.8度が平均体温という人はめったにいないと思います。環境問題と言っても、その影響は私たちが思っている以上に複雑なメカニズムで、私たちの健康に影を落としているのです。PM2.5や土壌、環境汚染に代表される環境汚染もあります。
文明、科学の発展により、恒温動物から恒時間動物、さらには恒環境動物になったわけですが、この一連の変化のために、最も重要であり、かつ基本的な「恒温の質」が下がるという影の落とし方もあるということを私たちは忘れてはいけないのです。
現代人の免疫力の根本原因がどこに存在するのか、これでお分かりいただけたと思います。
「立ち止まって考えてみよう」
この文章は、私が尊敬申し上げている薬師寺の山田法胤管主の良くおっしゃっているお言葉です。
O