2014.7.11渡辺先生 「メディカルハーブの歴史」
2014.7.11.(金)11:00~13:00
渡辺肇子先生レベルアップ研修
(薬剤師 NPO日本メディカルハーブ協会理事)
@エルクレスト・アカデミー セミナールーム
テーマ:「メディカルハーブの歴史」
・メディカルハーブとは
ハーブはヒトの生活に役立つ植物の総称です。
「薬草」や「香草」と邦訳され、料理をはじめとして日常生活の様々な分野で活用されています。
メディカルハーブは、その中でハーブに含まれている成分を健康維持のために使おうとする分野で、薬用植物そのものを示す場合もあります。
食べ物、飲み物、香り、化粧品、儀式的なものに使われています
現在使用されている医薬品のおよそ半分はメディカルハーブにルーツがあると言われています。
痛みどめの成分は、元々柳の木の皮を取ってかじっていたと言います。18世紀になると、柳の木の皮に含まれる様々な成分の中から痛みを抑えるのに有効なものだけを取り出せるようになり、さらにそれを他の物からより簡単に作れるようにしたものが現在の医薬品なのです。
実際に木の皮に含まれる有効成分はサリシンという成分でしたが、胃を荒らすなどの副作用が強かったために化学的に加工したものがアスピリンです。
最近では脱法ハーブ(危険ハーブ)が話題になっていますが、決してハーブが悪いわけではありません。脱法ハーブはハーブに化学物質を滲み込ませてタバコを吸う要領で吸引して使用されています。
・自然療法(ナチュロパシー)
近代医学(西洋医学)以外の、主に伝統的な療法を代替医療や相補医学と言います。
その多くは、健康管理や病気の予防を重視すること、そして治療には自然治癒力を利用するという共通点があります。
アベノミクスの第三の矢として、食品について保険の効くものと効かないものを分けるのではなく混合医療として合わせていこうという流れもあります。
これを「自然療法(ナチュロパシー)」と呼び、メディカルハーブもその位置分野に当たります。植物療法は、最も歴史がある自然療法と言えます。
・自然治癒力
自然療法では、健康な時の人の体は全体的に一定のバランスが取れた状態であると考えます。これが崩れると病気になるのです。
自然治癒力は崩れたバランスを元に戻すように働きかけます。
津城近代医学では、菌に感染したときには抗生物質を使ってその原因菌を退治しようとしますが、本来は元々身についている自然治癒力によって治すことができます。
自然療法では、人を心も含めて全体的(ホリスティック)に捉え、その全体のバランスを見ます。これが、外から来る病気の原因や病んでいる部位にだけ働きかけようとする近代医学との大きな違いです。
〈メディカルハーブの成分と作用〉
ヒトは従属栄養生物と呼ばれ、植物や動物を食べなければ生きていけませんが、植物は水と二酸化炭素、太陽光があるだけでグルコースを作り出すことができる独立栄養生物と呼ばれています。
・光合成
植物は空気中の二酸化炭素と根から吸い上げた水を、太陽の光で反応させてブドウ糖をつくります。ここから炭水化物、脂質、アミノ酸、タンパク質など植物が必要な物質が合成されます。その過程で、色々な植物化学成分(フィトケミカル)も合成されます。
これらがメディカルハーブの有効成分です。
二酸化炭素 + 水 → グルコース + 酸素 + 水
・植物化学成分
植物化学成分の種類は、1種類の植物だけでも数百という数になります。
含まれている成分のグループが分かれば、ハーブ全体の持つ作用を大まかに知ることができますが、それがすべてではありません。
1.フラボノイド:元々薄黄色や黄緑色というフラバスという言葉からできた言葉で、植物の色素成分のグループで、鎮静、発汗、発汗、利尿、抗アレルギーなど多くの作用を持っています
2.アルカロイド:脳に働きかけることができ、マテ中のカフェインは興奮作用、パッションフラワー中のハルマンは精神安定作用を持っています
また植物化学成分には水に溶けやすい水溶性成分と、油に溶けやすい脂溶性成分があります。植物がこれらの化学物質を作り出すのは、自らの生存のためです
苦味質:健胃作用を持つ。植物にとっては害虫を遠ざけるために作っており、アルカロイドも同様で、精油の中にも防虫作用をもつものがあります
色素成分:花に含まれているものは昆虫を引き寄せる一方で、有害な紫外線から植物を守る役目も果たす。植物は日差しが強いところでも日陰に移動することができないため、自ら強い紫外線に打ち勝つための抗酸化物質を作り出すハーブがあります。
ビルベリーなど北欧の緯度の高いところで育つ植物は、紫外線から身を守るためにアントシアニンなどの抗酸化成分を作り出し、非常に濃い紫色をしているのが特徴です。
タンニン:タンパク質を固める性質があり、樹皮などにつけられた傷はタンニンによって修復されます
核酸:DNAの元となる重要な成分です
ミネラル:鉄やケイ素といったミネラルは、植物でも作り出すことができませんが、土からミネラル分を吸収することでミネラル分を多く含んだハーブもあります。
従って、植物が自分の体を守ったり、ケアしたりするために作り出した化学物質の中から、人の体に合うものを選び出して使うのが、メディカルハーブと言えます。
現代の医薬品のルーツとなっているものの多くはメディカルハーブです。
自然にある成分だからといって、副作用が無いわけではありません。医薬品と比べれば穏やかではありますが、過剰な摂取は逆に毒になってしまいます。
・成分の相乗効果
大きな特徴は、複数の成分が相乗効果を発揮することです。これには別々の成分が同じ作用を持っていて効果が増す形と一つの成分の作用を別の成分が補助する形があります。
エルダーフラワーの利尿作用は、フラボノイドの利用作用とカリウムの利尿作用が相乗的に働いたものです。
また、ローズヒップは一緒に含まれているクエン酸などが体内でのビタミンC利用効率を高めるため、単にビタミンCの錠剤を使うよりも効果が増大します。
・多方向への作用
1種類のハーブで心身の両方に同時に効果をもたらすことができることも、医薬品には見られない特徴です。
ジャーマンカモミールを胃のケアに利用するときには、胃壁に直接働く消炎作用を持つ成分と、芳香成分に気分をリラックスさせる作用があるため、傷んだ胃の修復とストレスの修復とストレス解消の両方を目的とします。ローズヒップは、一緒に含まれているクエン酸などが体内でビタミンCの利用効率を高めるため、単にビタミンCの錠剤を使うよりも効果が増大します。
同じことを医薬品やろうとすれば、最低でも2種類の薬が必要になります。
エキナセア:免疫を調整する作用があり、風邪などでは免疫力を高めてウィルスに勝てる状態をつくります。アレルギーなど免疫が過剰に働いている場合には、正常範囲内に調整する働きもあるのがメディカルハーブの特徴です。
・調整作用
メディカルハーブの使い方では、たびたび同じハーブを正反対の症状に用いることがあります。ハーブには多様な成分が含まれるからです。
1.肌の調子を整える作用に優れているのなら、乾燥肌と脂性肌の両方に利用できる
2.腸の調子を整える作用があれば、便秘と下痢の両方に使える
メディカルハーブの作用の現れ方はとても多様で、使う人それぞれの心身の状態によって変化すると言っても過言ではありません。
・メディカルハーブの働き
1.
抗酸化作用
2.
生体防御機能調整作用
3.
抗菌、抗ウィルス作用
4.
薬理作用
5.
栄養素の補給
・フィトケミカルの特徴
1.
生体防御調節機能の向上:心身症の予防、アダプトゲン作用(免疫、内分泌調整作用)
2.
抗酸化作用:生活習慣病の予防、SOD様作用、代謝促進作用
・メディカルハーブの調整
ハーブには何種類もの調剤の方法があります。これは、もっとも有効な形(剤形)が目的によって違うことと、ハーブに含まれている成分には水溶性と脂溶性のものがあるためです。
ハーブティーでは水溶性の成分が得られ、チンキや浸出油は、脂溶性の成分が得られます。
利用したい有効の性質に合わせた方法の選択が必要となります。
・ハーブティー
熱いお湯を使う方法(ハーブティー)と水出しハーブティーがあります。お湯を使うものを「温浸出」、水で抽出するものを「冷浸出」と言います。飲用するので、成分が体内に吸収されやすいのが大きな特徴です。
口や胃炎など消化器に炎症がある場合は、炎症部位に成分を直接作用させられるという利点もあります。また、ハーブティーから立ち上る香りには、アロマセラピーの効果もあります。
・ハーブティーの淹れ方
ティーポッドにハーブを入れ、熱湯を注いで抽出します。効率よく抽出するためにはハーブを細かくし、必ず熱湯を使うようにしましょう。
ハーブは使う分だけ、潰すようにして一日3~4回に分けて飲みます。
水出しの場合は、雑菌に注意してください。
花や葉は3分間、種子や根は5分間抽出します。
・水出しハーブティーの淹れ方
常温の水で長時間かけて抽出します。時間はかかりますが、お湯を使用しないため高温で注する成分(カフェイン、タンニンなど)の溶け出しが抑えられます。
容器に蓋をして、常温で6時間抽出します。
・ハーブの色々な剤型
ハーバルバス
チンキ
フェイシャルスチーム
芳香浴
湿布
アイパック、フェイスパック
浸出油
軟膏
パウダー
・基剤
ハーブティーをつくる水、チンキのためのアルコール、軟膏のためのミツロウなど、ハーブ製剤で使用するハーブ以外の材料を基剤と言います。
基剤の主な役割は、ハーブに含まれている成分を利用しやすい形で取り出したり、加工したりすることですが、基剤自体にも有効な働きがあり、ハーブとの相乗効果を期待して使用する場合もあります。
水:水道水、ミネラルウォーター、精製水、芳香蒸留水など
ミツロウ:ミツバチが分泌する蝋で、ビーワックスとも言います
グリセリン:植物性、動物性の油から作られる無色、無臭の液体。保湿作用に優れていて、水と良く混ざります。
クレイ:シリカ(ケイ素)を含み、カオリン、モンモリオナイトなどがあります。吸収作用、吸着作用、洗浄作用、収斂作用があり、パック剤に使用します。
アルコール(エタノール、エチルアルコール):水溶性、脂溶性両方の成分を溶かし、チンキをつくるときに使用します。消毒作用があります。
濃度によって違いがあり、消毒用エタノールでは76.8~81.2%、エタノールでは95~95.5%、無水エタノールは99.5%以上となっています。
内用チンキでは、度数の高いウォッカ(40度以上)も使用できます。
・安全に使用するために
ハーブには非常に多くの種類があり、中には使用方法を誤ると大きなトラブルを引き起こすものもあります。また、購入したものをそのまま使用することで、衛生面での注意も必要です。
購入時の注意として以下のようなものがあります
1.
食品を選ぶ
2.
色と香りでチェックする
3.
大量に買わない
4.
学名を確認する
5.
信頼できる店で購入する
・メディカルハーブの使い方
1.
胃腸の不調
食べ過ぎで胃がもたれる、お腹に不快感がある、吐き気がする、下痢など胃腸の不調と言っても症状は様々ですが、単に消化器の機能が低下しているだけでなく、不安や緊張、イライラなど精神的なストレスが関わっていることも少なくありません。
消化器の機能を調整する作用に加えて、ストレスを和らげる作用を持つハーブを選びます。
ペパーミントとジャーマンカモミールのティー
ペパーミントパウダー
ペパーミントは胃を不快な症状をスッキリとさせる作用があり、過敏性腸症候群(IBS)でも使用されます。
カモミールも症状を穏やかにする働きがあります。
それぞれを単品で飲むとあまり好きではないと言う方も多いハーブですが、ブレンドすることによって角が取れて、飲みやすくなります。
2.
ダイエット
ダイエットには様々な手段がありますが、早急な結果を求めるような無理な方法には、必ずリスクがあります。いくら体重を減らせても、肌荒れ、貧血、月経不順など、他のトラブルを抱えたら意味がありません。腸からの糖分の吸収を抑える、脂肪の燃焼を助けるハーブを利用して健康なダイエットに取り組みましょう。
マルベリーのティー
マテのティー
マルベリーとは、桑の葉のことで、DNJ(デオキシノジリマイシン)という成分が含まれており、これを食前に飲むことで摂取した食品からの糖の吸収を抑えるという働きがあります(小腸で糖の分解酵素であるα-グルコシダーゼに結合して、その活性を阻害します)。糖尿病の薬でも同じような作用を持つものがあります。
マテは、コーヒーよりも多くのカフェインを多く含んでおり、代謝を高めて脂肪の燃焼を促進します。
その他、下剤の働きを持つハーブもあります。
3.
シミ、色素沈着の予防
シミの正体は体内で作られたメラニン色素で、無防備に浴びてしまった紫外線などが原因で、老化現象の一つです。
メディカルハーブのケアでは、老化を遅らせるためにハーブが持つ抗酸化作用を、シミ、色素沈着の予防にアプローチします。
ジャーマンカモミールの外用チンキ:アルコールで2週間ほど漬けたものを水やグリセリンで希釈して、パッティングします。
マルベリーのフェイスパック:マルベリーとカオリンなどのクレイを混ぜて使います。柔らかい成分が入っていないので、完全に乾く前に洗い流してください。
4.
シワ、たるみの予防
シワやたるみも皮膚の老化が根本的な原因です。このケアには、フェイシャルスチームで肌を引き締める収斂作用をもつハーブと、体内からコラーゲンの生成を促すハーブを選びます。
リンデンとウスベニアオイのフェイシャルスチーム
ローズヒップのティー
リンデンは菩提樹の一種です。ウスベニアオイには粘液質が含まれておりお風呂に入れることも可能です。ローズヒップはレモンの20倍のビタミンCを含み、熱湯でも壊れにくいという特徴があります。
5.
肌荒れ
メディカルハーブを美容に利用する方法のうち、ハーブティーなどで有効成分を摂取して体の内部からケアする方法を内面美容法と言います。肌荒れに対してはその内面美容法を選択し、炎症を抑える作用に優れたハーブ、吹き出物などがある場合は解毒作用に優れたハーブを使います。
ジャーマンカモミールとローズヒップのティー
ダンデライオンのティー
ダンデライオンはタンポポコーヒーに使われているタンポポの根で、焙煎してあるものは香りも良く、苦みが肝臓の働きを助けます。
ジャーマンカモミールも香りがよく、炎症を抑える効果があります。
6.
冷え性
女性に多く見られる冷え性には、腰から下が冷たい、手足の指先が冷たい、顔はのぼせているのに足が冷たいなど、色々な症状があります。直接的な原因は全身の血液循環が悪くなっていることなので、まずは血行を良くすることを心掛けます。
さらにストレスが冷えの誘因になっていることもあります。ストレスを感じると筋肉の緊張が高まり、血管が収縮して血液の流れが悪くなります。
ジャーマンカモミールの内用チンキ:フラボノイドを含んでいるため、全身の循環を促進します。
リンデンの足浴:フラボノイドを含んでおり、発汗や鎮静作用があります。
7.
便秘
食生活の偏り、運動不足、ストレス、消化不良など便秘にも様々な原因があります。
ハーブでは、消化機能を促したり、腸内の環境を改善するものを選びます。
ダンデライオンのティー:消化器全体を改善する働きがあります。
ペパーミントの温湿布: 過敏性腸症候群に特に有効です。固く冷たくなっている腹部を温湿布でほぐします。
8.
肩こり、腰痛
肩こりや腰痛の大きな原因の一つは、筋肉の疲労です。スポーツ後だけでなく、長時間同じ姿勢を取り続けることからくる疲労も慢性的な肩こりや腰痛につながります。
メディカルハーブのケアでは、慢性的な痛みに対して温湿布を行い、ハーブティーで疲労回復を促します。
ジャーマンカモミールの温湿布:慢性的な痛みに特に有効です。ストレスが強い場合はカモミールを使うと良いです。
ハイビスカスのティー:クエン酸が疲労物質の代謝を促進します
ペパーミントの温湿布:リフレッシュしたい時にお勧めです
9.
スポーツ前の集中力と持久力のアップ
スポーツで消費されるエネルギーの大部分は糖質なので、運動前には吸収の良い糖質を摂ってエネルギーを溜めておきます。糖質のエネルギー代謝を活発にするハーブや運動で消費するビタミンCを補給するハーブが有効です。
ローズヒップとハイビスカスのティー:ビタミンCを非常に多く含むローズヒップは一見酸味が強そうですが、実際はとてもまろやかな味わいです。ハイビスカスはクエン酸を多く含むため、酸味が強くなります。
マテのティー:カフェインを多く含むため。集中力や持久力のアップに最適です。
10.
不眠、抑うつ
不眠と言っても、寝つきが悪いタイプと早期覚醒という早朝に目が覚めてしまうタイプとでは原因がやや異なり、早期覚醒タイプは抑うつ傾向が背景にあるとされています。メディカルハーブでのケアもこの違いに合わせて、普通の不眠には鎮静作用や緩和作用に優れたハーブを、抑うつタイプには抗うつ作用のあるハーブを使います。
ジャーマンカモミール(+ペパーミント)のティー:鎮静作用や緩和作用に優れています
セントジョーンズワートのティー:気持ちの落ち込みの緩和に有効です。
リンデンの芳香浴
11.
不安、緊張
覆いかぶさってくるような不安感や、居ても立っても居られないような緊張感を解きほぐすには、鎮静作用の高いハーブのティーを時間をかけて楽しむのが一番です。お茶を入れて飲む時間をつくるだけでも、ストレスの緩和に繋がります。
手浴も予想外に効果が大きいものです。ハーブがオフィスなどで簡単にできるのも利点です。
ジャーマンカモミールとパッションフラワーのティー:パッションフラワーはアルカロイドの作用で脳に直接働きかけて気持ちを落ち着けます。
ジャーマンカモミールの手浴:手は緊張で発汗が過剰になったりと感情を表しやすい部分であると言えます。そういった部分を温めることで精神を安定させます。
12.
強壮
強壮とは、強く活力をみなぎらせることです。肉体的な活力だけでなく、心の元気づけも含みます。特定のトラブル解消ではないので、毎日利用でいる方法であることが大切です。
ダンデライオンのティーまたはミルクティー:肝臓の働きを助けるので夏バテなどに有効です。
マテのティー、またはミルクティー:カフェインで代謝を促進します。
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