2014.7.11. 米澤須美先生 「ビタミン」
2014.7.11.(金) 14:00~16:00
米澤須美先生 第8回レベルアップ研修
(管理栄養士 「談らん日本」ネットワーク主宰)
@エルクレストアカデミー セミナールーム
テーマ:基礎から学ぶ、栄養学について 「ビタミン」
・代謝について
人は生命維持、身体活動を行うために必要な栄養素を食べ物として取り込む必要があります。この栄養素を生体内でより単純な物質に分解する反応を異化と言い、これにより生物はエネルギーを獲得します。また、この栄養素に特定の化学変化を加え、必要な物質を作り出すことを同化と言います。
代謝:物質面から見た場合を物質代謝、エネルギー変化面から見た場合をエネルギー代謝と言います。物質代謝には、前述の異化と同化の2つの過程があります。エネルギー代謝には、基礎代謝、活動代謝、食事誘導性熱の3種類があります。
・消化について
消化とは、食べ物を分解して吸収しやすい形にすること
1. 物理的消化:消化管の運動
2. 化学的消化:消化液の作用
3. 生物学的消化:腸内細菌の作用
消化管とは口から肛門まで続く1本の管のことで、口腔、食道、胃、小腸、大腸、肛門から成っています。消化器とは消化管に付属している器官のことで、唾液腺、肝臓、胆嚢、膵臓があります。
・3大栄養素について
3大栄養素のエネルギー価(栄養素1gがそれぞれ体内で発生するエネルギー量)は、タンパク質4kcal、脂質9kcal、糖質4kcalで、この量を生理的燃焼価と言います。
タンパク質の1日推奨量は、18~69歳の女性で50g/日です。
脂質の1日の脂肪エネルギー比率は、一日の総エネルギーにおける脂質の割合で、男女ともに1~29歳は20%以上30%未満、30歳~69歳は20%以上25%未満です。
30%以上になっているとエネルギーを脂質に依存していると言え、肥満になりやすくなっていく傾向があります。食事をチェックしてみると、揚げ物、炒め物、ドレッシング、マヨネーズ、ポテトチップスといった食品を多く摂取しています。
また糖質制限ダイエットや総エネルギー量を1500kcal未満などに抑えている方の場合、主食が減り主菜の量はあまり変わっていないことが多いので、相対的に脂質の割合が増えて、
栄養摂取のバランスが崩れてしまっているケースもあります。
糖質の適正エネルギー比は、総エネルギーに占めるエネルギーの50~70%未満です。したがって総摂取量を2000kcalにするのであれば、1000kcalは糖質を摂取するべきです。
・代謝回転について
代謝周期は、小腸の上皮は約2日、胃は5日、心臓は22日、肌は28日、筋肉や肝臓は60日、骨細胞は約90日です。
人体の臓器のタンパク質代謝は、全体では、代謝回転の遅い47%のタンパク質は130日で生まれ変わり、代謝回転の速い53%のタンパク質は22日で生まれ変わります。
筋肉は、代謝回転の遅い40%のタンパク質は100日で生まれ変わり、代謝回転の速い60%のタンパク質は、16日で生まれ変わります。
・食事誘導性熱代謝について
食事をすることによってエネルギーを消費することで、食物を噛む、食物を腸で消化吸収するなど、食事に関わる生体の働きによってエネルギーが消費されることを言います。
栄養素の種類によって食事誘導性熱代謝のエネルギー消費は変わります。
タンパク質のみ:摂取エネルギーの約30%
糖質のみ:摂取エネルギーの約6%
脂質のみ:摂取エネルギーの約4%
通常の食事(混合):摂取エネルギーの約10%
がエネルギーとして消費されます。
・基礎代謝について
基礎代謝に影響する要因
1. 体表面積:同じ体重でも身長が高く痩せている人の方が、体表面積が大きくなり、基礎代謝が高くなります
2. 年齢:年齢が若い方が高くなります
3. 性別:男性>女性
4. 体格:筋肉質>脂肪質
5. 体温:体温が高い人は、基礎代謝も高くなります
6. ホルモン:甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンの分泌量が多い人は基礎代謝大きい
・推奨量と目安量について
推奨量とは、ある母集団のほとんど(97~98%)の人において1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量で、目安量とは、推定平均必要量及び推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、特定の集団の人々がある一定の栄養状態を維持するのに十分な量
・腸内細菌と食事について
腸内の善玉菌を増やす方法
1. ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物などビフィズスや乳酸菌を含む食品を直接摂取する(毎日続けてが望ましい)
2. オリゴ糖や食物繊維を摂取する。これらの成分は、消化、吸収されることなく大腸まで達し、善玉菌の栄養源となり増殖を促します。
〈ビタミンについて〉
ビタミンは微量栄養素と言われ、わずかな量で体の様々な機能を調節、サポートをする生命活動に必須の有機物(有機化合物:炭素を含む化合物の大部分)です。
ビタミンは体内ではつくることができず、つくれたしても十分な量ではないので、食物から摂取る必要があります。
ビタミンは、13種類あり、水溶性と脂溶性に分けられます。
水溶性ビタミン:尿などに排出されやすく、体内にためておくことができないため、必要な量を毎日摂ることが大切です。
脂溶性ビタミン:あぶらと一緒に摂ることで吸収率が上がります。排出されにくく、摂りすぎると過剰症になる恐れがあります。
脂溶性ビタミン
名称 |
性質 |
生理作用 |
欠乏症 |
過剰症 |
主な供給源 |
ビタミンA |
熱に弱い、光に弱い |
皮膚や粘膜上皮細胞を健康に保つ、 抗酸化作用 |
脱毛、皮膚炎、夜盲症 |
激しい頭痛、めまい、嘔吐、皮膚の異常 |
レバー、ウナギ、緑黄色野菜 |
ビタミンD |
熱に弱い、光に弱い |
骨、歯の再石灰化促進 |
骨軟化症、骨および歯の発育不全 |
血管壁や各臓器にカルシウムが沈着しやすくなる |
魚類、干しシイタケ、卵黄 |
ビタミンE |
熱に弱い、光に弱い |
抗酸化作用、冷え性の改善、ホルモンの生成、分泌に関与 |
肌にシミができやすくなる、血行が悪くなる |
|
穀物胚芽、豆類、植物油 |
ビタミンK |
光に弱い |
血液の正常な凝固、骨、歯の再石灰化促進 |
|
低血圧、呼吸困難、貧血 |
緑黄色野菜、海藻、納豆 |
*緑黄色野菜:切っても色が濃い野菜、600㎍以上のカロテンを含む野菜
水溶性ビタミン
名称 |
性質 |
生理作用 |
欠乏症 |
過剰症 |
主な供給源 |
ビタミンB1 |
水に溶けやすい、熱に弱い |
糖質の代謝に必須、神経系の伝達に関与 |
だるさや疲労感、イライラ、脚気 |
|
豚肉、穀類、種実類、豆類 |
ビタミンB2 |
光に弱い |
脂質代謝に関与、過酸化脂質の分解を促進 |
口角炎、口唇炎、ニキビ、脂漏性皮膚炎、眼瞼炎、眼精疲労 |
ごく稀にかゆみ、痺れなどが起こる |
牛乳、レバー、卵
|
ビタミンB6 |
光に弱い |
アミノ酸の代謝促進、神経伝達物質の生成促進、月経前症候群の改善 |
欠乏は稀だが、ピルを常用していると不足しやすい |
感覚神経障害が稀に起こる |
牛肉、レバー、卵類、緑黄色野菜、魚類、 |
ナイアシン(ニコチン酸) |
水、特にお湯に溶けやすい |
糖質、脂肪からのエネルギー獲得に関与、コレステロール値や中性脂肪値の低下 |
頭痛、めまい、不眠症、抑鬱症、ペラグラ |
皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなったりする |
鰹節、鶏肉、落花生、米ぬか |
パントテン酸 |
熱に弱い |
タンパク質、糖質、脂質の代謝に関与、紫外線による皮膚の炎症予防、紙の健康を保つ |
栄養状態が極端に悪くならない限り、欠乏症は起こらない |
|
牛レバー、酵母、落花生、米ぬか |
ビオチン |
熱に弱い |
脂質や糖質、タンパク質の代謝を助ける、細胞増殖の促進、アトピー性皮膚炎の改善 |
皮膚炎、白髪化(極度の偏食か腸に障害が無い限り、欠乏症にはならない) |
|
酵母、レバー、卵黄 |
葉酸 |
光に弱い |
細胞の分裂や増殖、成熟に関与、抗貧血作用 |
悪性貧血、流産、死産、子宮内胎児発育遅延 |
|
レバー、きのこ、酵母、緑黄色野菜 |
ビタミンB12 |
光に弱い、水やアルコールに溶けやすい |
核酸の合成に関与、睡眠相遅延症候群、時差ぼけの改善 |
悪性貧血、胃酸の分泌低下、慢性の下痢、神経障害 |
|
牛レバー、かき、さば |
ビタミンC |
熱に弱い、光に弱い |
コラーゲンの生成、抗酸化作用、メラニン色素沈着の防止 |
壊血病、疲れやすい、シミ、ソバカス |
下痢、頻尿、発疹 |
果実、野菜、芋類、緑茶 |
・ビタミンの種類と多く含む食品
ビタミンの種類 |
多く含んでいる食品の例 |
水溶性ビタミン |
|
ビタミンB1 |
肉、豆、玄米、チーズ、牛乳、緑黄色野菜 |
ビタミンB2 |
肉、卵黄、緑黄色野菜 |
ビタミンB6 |
レバー、肉、卵、乳、魚、豆 |
ビタミンB12 |
レバー、肉、魚、チーズ、卵 |
ビタミンC |
緑黄色野菜、果物 |
ナイアシン |
魚介類、肉類、海藻類、種実類 |
パントテン酸 |
レバー、卵黄、豆類 |
葉酸 |
レバー、豆類、葉物野菜、果物 |
ビオチン |
レバー、卵黄 |
脂溶性ビタミン |
|
ビタミンA |
レバー、卵、緑黄色野菜 |
ビタミンD |
肝油、魚、きくらげ、しいたけ |
ビタミンE |
胚芽油、大豆、穀類、緑黄色野菜 |
ビタミンK |
納豆、緑黄色野菜 |
レバー50gは、大ぶりの串刺しで摂れてしまうので、6500~7000㎍を簡単に摂ってしまうため、注意が必要です。
葉酸は、妊娠初期に胎児が正常に発育していくために必要ですが、妊娠期間中継続的にサプリメントなどで摂りすぎてしまうと、生まれた子供がアレルギー体質になってしまうといった報告があるため注意が必要です。
ビタミンAは、生理作用として、皮膚や粘膜上皮細胞を健康に保つ役割があります。また抗酸化作用が強いため、アンチエイジングやガンの予防に有効と言われています。
ビタミンDは、肝油などに含まれ、日に当たることで、紫外線がコレステロールを変化させて活性型ビタミンDに変換されて、骨代謝に関わります。
・脂溶性ビタミン 成人女性1日の推奨量(栄養調査などで98%の人がその量を摂れば健康上問題ないと言われている量)、耐容上限量、目安量(推奨量)
(日本人の食事摂取基準2010年版より)
|
推奨量 |
耐容上限量 |
ビタミンA |
650~700㎍RE |
2700㎍RE |
|
目安量 |
許容上限量 |
ビタミンD |
5.5㎍ |
50㎍ |
ビタミンE |
6.5㎍ |
650~700㎎ |
ビタミンK |
60~65㎍ |
- |
*RE:レチノール当量
ビタミンAは、一般的には動物性食品に含まれるレチノールというものを指していますが、植物性食品ではカロテノイドという形で存在しており、体内でビタミンA に変換されます。
この二つを合わせてレチノール当量と言います。
・水溶性ビタミン 成人女性1日の推奨量、耐容上限量
|
推奨量 |
耐容上限量 |
|
推奨量 |
耐容上限量 |
ビタミンB1 |
1.1㎎ |
- |
葉酸 |
240㎎ |
1300~1400㎍ |
ビタミンB2 |
1.2㎎ |
- |
ビタミンC |
100㎎ |
- |
ビタミンB6 |
1.1㎎ |
45㎎ |
|
目安量 |
耐容上限量 |
ナイアシン |
11~12㎎NE |
250㎎NE |
パントテン酸 |
5㎎ |
- |
ビタミンB12 |
2.4㎍ |
- |
ビオチン |
50㎍ |
- |
*NE:ナイアシン当量=ナイアシン+1/60トリプトファン
・実際の摂取量について
|
15~19歳 |
20~29歳 |
30~39歳 |
40~49歳 |
50~59歳 |
60~69歳 |
ビタミンA(㎍RE) |
491 |
476 |
490 |
464 |
521 |
565 |
ビタミンD (㎍) |
6.0 |
5.4 |
5.8 |
5.8 |
7.1 |
8.5 |
ビタミンE(㎎) |
6.3 |
5.9 |
6.2 |
6.1 |
6.7 |
7.1 |
ビタミンK (㎍) |
201 |
195 |
210 |
209 |
231 |
267 |
ビタミンB1(㎎) |
0.87 |
0.79 |
0.79 |
0.78 |
0.85 |
0.86 |
ビタミンB2(㎎) |
1.10 |
1.06 |
1.03 |
1.02 |
1.13 |
1.20 |
ナイアシン(㎎NE) |
12.3 |
12.3 |
12.9 |
13.2 |
14.4 |
15.2 |
ビタミンB6(㎎) |
1.03 |
1.06 |
1.01 |
1.00 |
1.14 |
1.22 |
ビタミンB12(㎍) |
4.7 |
4.4 |
4.7 |
4.5 |
5.4 |
6.6 |
葉酸(㎍) |
239 |
235 |
244 |
251 |
290 |
330 |
パントテン酸(㎎) |
5.23 |
4.70 |
4.75 |
4.77 |
5.13 |
5.43 |
ビタミンC(㎎) |
78 |
78 |
76 |
79 |
102 |
125 |
ジャガイモに含まれるビタミンCは壊れにくいと言われており、有効です。
・腸内細菌が生成するビタミン
腸内細菌が生成するビタミンで良く知られているものにビタミンKがありますが、パントテン酸などのビタミンB群も生成していることが分かっています。腸内環境が悪化すると、ビタミンの生成も低下するので、腸内環境を良くするために食生活を整え、便秘を防ぐなどの配慮が必要となります。
腸内細菌の種類は、食事によって変わります。
プレバイオティクス:食物繊維やオリゴ糖を摂ることで善玉菌の餌となる
プロバイオティクス:納豆、ヨーグルト、漬物(キムチなど)といった乳酸菌を含む食品
を摂ることが有効です。
・3大栄養素とビタミンについて
1. 糖質とビタミンB1
ごはんなどの糖質は、酵素の働きで分解され、エネルギーに変わります。この酵素の働きを助ける補酵素がビタミンB1です。糖質の代謝に不可欠なだけでなく、代謝の過程で乳酸などの疲労物質の処理にも関わっています。
2. タンパク質とビタミンB6
筋肉はアミノ酸を材料につくられます。ビタミンB6はアミノ酸代謝に重要な働きをしており、筋肉アップを目指して、タンパク質食品を多く摂ったり、サプリメントなどを利用したりする場合、ビタミンB6の十分な摂取を心掛ける必要があります。
3. 脂質とビタミンB2
ビタミンB2は、3大栄養素の代謝に様々な形で関わっています。特に脂肪が燃焼するときに多く消費され、脂質の代謝に不可欠です。
また、タンパク質の合成にも関与し、櫃や毛髪などの細胞の新生、体の成長をサポートしています。(発育のビタミンとも呼ばれます)
*パントテン酸にも注目
パントテン酸は、体内でコエンザイムAとなりますが、コエンザイムAはエネルギー代謝過程で働く100種類以上の反応酵素の補酵素となります。例えば糖質代謝に関わるビタミンB1とともに中心的な役割を担い、脂質代謝に関わるビタミンB2と共に働きます。また、HDLコレステロールの合成促進にも関与します。糖質、タンパク質、脂質の代謝すべてに重要な役割を担っており、すべての細胞、組織の健康維持に関与しています。
パントテン酸は、食物から摂取するものと大腸で合成されるものとありますが、年齢と共に合成する働きが悪くなり、減少していきますのです目安量の2倍、10㎎摂るのが望ましいと言う文献もあります。(放送大学講師学術博士 佐藤秀美)
・食事の工夫
パントテン酸は、加熱調理すると消失してしまうので、なるべく生で食べられるものは生で食べたり、油で炒め包み込んだり、煮汁まで食べられたりする工夫をすると良いです。
また、体内で合成量を増やすために食物繊維を摂り、便秘を防いだり、腸内環境を良くしたりして、腸内細菌が合成してくれるのを促します。
鶏肉や茸はパントテン酸が多い食品で、鶏がらだしや椎茸だしには、パントテン酸が多く、スープ一杯で1㎎前後含まれます。