2014.1.17 渡辺肇子先生 「臨床検査の数値の見方」
2014.1.17.(金) 10:00~12:00
渡辺肇子先生レベルアップ研修
(薬剤師 NPO日本メディカルハーブ協会理事)
@エルクレスト・アカデミー セミナールーム
テーマ:「臨床検査の数値の見方」
〈主な検査項目〉
・一般の検査:呼吸器(肺活量)、循環器(血圧、心電図、脈拍数)、消化器(胃カメラ、便)、腎機能(尿検査)、血液一般(赤血球の数、形、白血球、)、眼科
肺活量検査、聴力検査、乳房検査、子宮粘膜細胞診、頭部CT検査、腰、頸椎エックス線検査
・血液生化学検査:糖尿病、肝機能、腎機能、脂肪代謝、電解質、甲状腺機能、尿酸
・腫瘍マーカー:あるガンにかかると特殊なたんぱく質がつくられるものがあるため、それを調べたり、子供の時には持っていた成長に関わるたんぱく質が大人になっても見られる場合はガンの疑いがあるため、それらを調べます。
・血清学的検査:血液型やCRP、ASO、HBS(B型肝炎)、HCV(C型肝炎抗体)
〈血液の主な検査〉
血液検査で得られたデータのうちのある一つの値から診断を行うことは感染症を除いては無く、必ずその他の検査と併せて診断をしていきます。
・単位について
IU:体の中にある酵素を表す単位で、ある体積の中にどれだけの重さがある(g グラム)が重要なのではなく、どれだけの働きがあるかを見る必要があるため、特殊な単位になっています。酵素は熱や光に弱いという特徴があり、これらで変性してしまった酵素は元には戻りません。
酵素の働きとしては、体内で起こっている反応の手助けをする役割があり、食べ物が自然に分解されるのには長い時間がかかりますが、体内では消化酵素によって2~3時間で分解することができます。
マイクロメートル:100万分の1メートル
ナノメートル:10億分の1メートル
血液は液体だけでなく、個体も多く含まれています。採血の時には、容器に血液が固まらないように抗凝固剤が入っています。もし抗凝固剤が入っていないと血液はあっという間に固まってしまいます。
血液を遠心分離にかけると、液体成分である血漿と細胞成分である白血球、赤血球、血小板に分かれます。
・血球算定:血液1平方ミリメートルあたりの赤血球数、白血球数、血小板数を数えます。
赤血球の役割は、体の隅々まで酸素を届けることですが、細胞の中でも寿命が短く、約120日と言われています。その数が少なかったり、どんどん壊されてしまう状態になると貧血という診断になります。また、高地にいる人では、酸素が少ないために赤血球が過剰に増えてしまう多血症といった状態もあります。
白血球は、細菌やウィルスを排除する免疫において重要な役割を持っています。低値では感染症にかかりやすくなります。
血小板は、出血した際に損傷部位を塞ぐための栓としての役割を持っていますが、過剰になってしまうと血管が詰まりやすくなります。
・ヘモグロビン、ヘマトクリット:血液中のヘモグロビンの量、ヘマトクリットでは一定量の血液中に含まれる赤血球の割合を調べます。貧血の有無や貧血の種類を診断する手がかりになります。
・血液像:白血球の5つの分画ごと、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の増減数を調べます。
増加している場合は、結核など、減少している場合は敗血症や白血病が疑われます。
・赤沈(血沈):抗凝固剤を入れた血液中の赤血球が、管の中で沈降する速度を調べます。病気があると、数値が高くなります。言い換えると血液の粘性を調べて、ドロドロがサラサラかを診ます。
・MCV、MCH、MCHC:赤血球の色素の量の平均値、色素の濃度の平均値を診ます
〈生化学の主な検査〉
‐糖尿病‐
・血糖:血液中のブドウ糖の量を調べます。空腹時血糖検査とブドウ糖負荷検査があり、ブドウ糖負荷試験は、糖尿病をより詳しく診断でき、治療方針を決める上でも欠かせません。空腹時血糖検査では、糖尿病の人の血糖値が平均的に高いことが分かるため、スクリーニング検査として有効で、この検査で高値であれば、ブドウ糖負荷試験を行います。
・尿糖:本来糖は尿中に出ることはありませんが、血糖値が一定限度を超えると、尿中に漏れ出てきます。この場合はかなり進行した状態を示しています。
・糖化ヘモグロビン:ヘモグロビンとブドウ糖が結合したもので、この数値は血糖コントロールの目安になります。糖尿病になると、ヘモグロビンの中でも特にヘモグロビンA1cが増加します。糖尿病は遺伝的な要因も多いため、親戚に糖尿病の人がいれば、注意してみていく必要があります。赤血球の寿命は120日であり、その間のヘモグロビンの状態を知ることができるので、食生活などが反映されます。
‐肝機能‐
・総ビリルビン:胆汁色素のビリルビンには、腎臓を通過可能な直接ビリルビンと、通過不可能で尿中に排泄されない間接ビリルビンとがあります。これを合わせたものが総ビリルビンです。
胆石、肝炎などにより、血清中に1dlあたり3.0㎎以上増加すると黄疸を起こします。
肝臓は非常に大きな臓器で、女性でも1㎏以上の重さがあります。さらに高い再生能力を持っており、半分近く障害されても休養によって再生すると言われています。
・GOT(AST):肝細胞中に含まれる酵素。肝細胞に限らず、全ての細胞は生きており、生命活動を維持するために血液からエネルギーを取り入れています。肝細胞が破壊されたり、肝細胞膜の浸透性が高まると、血液中に流出して増加します。高値で慢性肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害が疑われます。心筋にも含まれ、心筋梗塞を診断する指標でもあります。
・GPT(ALT):主に肝細胞中に含まれている酵素で、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などの診断に役立ちます。GPTはストレスでも上がりやすく、海外旅行に行って魚介類などを食べた際にA型肝炎にかかった時には、特に黄疸が出るということもなく、多少疲労を感じる程度で、この時に血液検査を行うと、一時的に高値になることがありますが、通常であれば放っておけば治ってしまいます。
・LDH(乳酸脱水素酵素):主に心臓、腎臓、肝臓、肺、血液細胞、骨格筋などに含まれます。肝疾患であれば、GOT、GPT、ALPなどの検査と共に診断に用いられます。また、心筋梗塞、肺疾患、白血病、悪性貧血、肝炎、悪性腫瘍の時に増加します。
・ALP:肝臓で作られ、胆汁中に出される酵素。胆石、胆管の疾患、悪性腫瘍の肝転移や肝ガンの時に数値の上昇がみられます。他に骨疾患でも上昇します。
・γ―GTP:肝硬変や薬の副作用で発症する薬剤性肝障害の発見に役立ちます。常習飲酒者とそうでない人とでは明らかな差が出ます。
・ZTT:ZTTは、主に血清中のγグロブリン量を反映しています。慢性肝炎、肝硬変、結核、リウマチ、膠原病などの慢性炎症性疾患や骨髄腫などの診断に役立ちます。
・タンパク分画:アルブミン、グロブリン比(A/G比)を表します。肝硬変、栄養失調、慢性伝染病などの診断に役立ちます。
・コリンエステラーゼ:肝臓で生成され、血液中に分泌される酵素で、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する役割があります。アセチルコリンは分解されないと、筋肉などが興奮したまま戻らなくなってしまうため、非常に危険な状態になります。
肝細胞が障害されると値が低下します。GOTやGPTなどの検査結果が良好であっても、コリンエステラーゼが減少している場合、詳しい検査が必要になります。
‐腎機能‐
・尿素窒素(BUN):タンパク質が体内で分解された後の老廃物で、腎臓から尿に排出されます。腎機能が障害されると、血液中のBUNが増加し、尿中のBUNは減少します。
・クレアチニン:BUNと同様、腎臓から尿に排泄されるよう廃物の一つで、腎機能を知るための指標になります。
‐脂質代謝‐
・総コレステロール:体内に様々な形で存在するコレステロールの総計値で、動脈硬化や狭心症、心筋梗塞発症の危険度などの指標になります。誰でも加齢とともに動脈硬化は進んでいくため、その参考となるものです。しかし、実際にどれだけ動脈硬化が進んでいるかということは血液検査では知ることができません。正確な状態を知るためには、体の中に器具を入れたり、微弱な電流を流したりするといった手間のかかる検査が必要となります。
・LDLコレステロール:悪玉コレステロールとも呼ばれ、血管に沈着して、動脈硬化を発生、悪化させます
・HDLコレステロール:善玉コレステロールとも呼ばれ、体内の末梢で酸化して害をなすコレステロールを取り除き、動脈硬化などを防ぐ働きがあります。
・中性脂肪(トリグリセライド):体内で主に生命を維持するためにエネルギー源として利用されますが、利用後の余分な中性脂肪は主に皮下組織に貯蔵され、皮下脂肪となります。
‐その他‐
・アミラーゼ:でんぷんの消化酵素で、膵臓と唾液腺でつくられます。いずれかの臓器に障害があると、高値になります。
・電解質検査:ミネラルのクロール(Cl)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などの血清中の量を測定し、栄養状態などを調べます。この中で、ナトリウム、カリウム、クロールは、体内の水分の状態を診るために非常に重要な項目となります。脱水や大量出血では、これらのバランスが崩れ、浸透圧によって細胞が潰れたり、破裂したりしてしまいます。
・甲状腺機能検査:甲状腺の機能をみるために、甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)の血中量を測定します。
・尿酸:タンパク質が分解、吸収された後に残る老廃物の一種で、腎臓で排泄量を調整し、血液中の数値を一定に保っています。腎機能の低下や、尿酸の元になるプリン体の摂取過剰で増加します。
‐腫瘍マーカーの主な項目‐
・CEA:胎児の消化器組織だけにみられるタンパク質の一種ですが、ガン細胞が増殖している組織内からも作り出されます。主に胃や大腸、膵臓など、消化器系ガンのマーカーとして用いられます。
・CA-19-9:胆嚢や胆管、特に膵ガンの有無をチェックするのに用いられます。
・PSA(前立腺特異抗原):前立腺から分泌される生体物質で前立腺ガンのとき血清中の含有量が上昇します。前立腺炎や前立腺肥大症などでも上昇することがあります。
・AFP:胎児に見られる血清タンパクの一種ですが、肝ガンの腫瘍マーカーとして用いられます。肝炎や肝硬変でも数値は上昇します。
・CRP:体の組織に急性炎症や破壊が起こった時に、血液中に現れるタンパクです。
・ASLO:溶血性連鎖球菌が産生するSLO(ストレプトリジン10)に対する抗体をASLOと言います。溶血性連鎖球菌に感染していると、高値になります。
・RF:関節リウマチなどでみられる自己抗体の一つで、関節リウマチでも陽性となりやすいですが(70~80%)、他の自己免疫疾患、慢性肝炎などでも陽性になることがあります。リウマチが最も発生しやすいのは、30~40代の女性です。最先端のリウマチの治療は、進行の早い早期のうちに強めの薬で炎症を抑え、徐々に薬の強さを減らしてくといった方法です。
〈日本人と糖尿病〉
・欧米人はインスリン分泌能が高く、過食が続いてもインスリン分泌は低下しません。その結果、肥満にはなりますが、糖尿病にはなりにくいと言えます。
・多くの日本人のインスリン分泌能は欧米人よりも低く、過度の肥満になる前にインスリン分泌障害を起こし、糖尿病となります。
・また日本人はインスリン分泌障害優位の2型糖尿病が多いですが(食後高血糖)、先天的に分泌障害があっても、良い生活習慣があれば、インスリン感受性は高く、インスリン抵抗性を起こしません。
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