ニコチンの光と影 佐藤義之ドクター 免疫講座
2013.7.20(土)13:30~15:00
第16回 『免疫講座』
テーマ:「ニコチンの光と影」
講師:日本橋清州クリニック 院長 佐藤義之先生
・「妙」
世の中が「妙」になっている。
それは最近の医者の出す本が「妙」である。
例えば近藤誠先生の「医者に殺されない47の心得」という本が菊池寛賞を取った。
本の内容は、多岐に渡るが、検診は百害あって一利なし、ガンは原則として放置、ガンと診断される病変の9割は、ガンではなく、ガンもどきであり、残り1割の本物は現代の医療では治すことができない。したがって、ガンにしろ、ガンもどきにしろ、治療は患者を無駄に苦しめるだけであるといったことが書かれている。
健康診断において、被ばく量の問題からCT検査は受けるべきではないとしており、45歳の1万人のうち8人がCT検査によって発ガンして死亡するというデータを出している。
しかし、3人に1人が発がんすると言われている現代では、1万人いれば約3000人が発がんしている中で、どうやってCT検査で8人が発がんして死亡するという結果を導いたのかという公開質問には答えていないという。
ここには情報発信する側の問題、情報を受け取る側の問題があり、詳細に情報を発信、または受け取るということは森で物事を見ず、木で物事を見るという傾向に繋がる。
情報を発信するもののルールとして、自分が主張するものの光と影を書き、反論する人が書くものの光と影を書かなくてはいけないが、この本では自分の主張するものの光と反論するものの影だけしか書いておらず、ルールを守っていないのである。
お釈迦様は、自分(人間)を繰り返し分析して、法句経という仏典の中で人間の性格についてこう述べている。
人間は心の生き物である。
人間は恨みぶかき生き物である。
人間のその心はムラのある生き物である。
(例として、大災害があったところの人たちを気の毒に思う一方で、自分にそれが起こらなくて良かったと思う気持ちがあること)
人間は評価を欲しがる生き物である。
人間は後悔する生き物である。
佐藤先生は30年以上医師をされている中で、病気になった患者、またはその家族がなぜあの時検診を受けなかったのかという底知れぬ後悔に直面することが幾度となくあったことから、健康診断を百害あって一利なしという考え方は、患者を丸ごと人間として見ていないのではないかと近藤先生に直接話したことがあるという。
最近はインターネットで様々な情報が手に入るようになり、受け取る側は選択が難しくなっている。時代の流れは非常に速く、時代を追いすぎると人を見なくなり、虚無感、時代を恨むようになる。
情報を受け取る側の人間の責任として、情報を発信する人がそのルールをきちんと守って出している情報なのかを見極める必要がある。
必要は発明の母であるという言葉があり、通常、必要があって初めて発明が起こるが、最近は発明が先になり、後から必要をつくりだしているような流れがある。そして発明と経済が結びつくと、誰もが疑わない正義になる。物で栄えて、心で滅ぶという現実も考えていかなければならない。
〈ニコチンの光と影〉
この話は、ニコチンに限った話ではなく、ものの考え方として、全てのものに光と影があるという例である。
ニコチンは、アセチルコリン受容体と結合する作用があり、アセチルコリン受容体は脳神経細胞に多く存在する。
そうすると、ドーパミンやセロトニンという神経伝達物質を分泌させる。
ドーパミンは意欲亢進や快感をもたらす神経伝達物質である。
・原因不明の難病に指定されている潰瘍性大腸炎におけるニコチンの作用
潰瘍性大腸炎を罹患する人、罹患しない人を調べると、タバコをする人は、吸わない人の半分以下である。
タバコを吸わない潰瘍性大腸炎の患者さんにニコチンパッチを貼って経過をみると、約6週間で腹痛や下痢症状が改善する例が多い。
日本だけでなく、アメリカにおいても同様のデータがある。
帝京大学とJRが行った自殺者の喫煙調査では、2000人の自殺者の喫煙調査でそのほとんどの人が喫煙していない人であり、正確には愛煙家に自殺者がほとんどゼロなのである。
タバコは喫煙習慣のある人にとっては、ストレス解消の大きな手段であり、ニコチンが脳内物質に影響を与えているという裏付けでもある。
・呼吸法との関連
タバコを吸うときの呼吸は、本来ゆっくりとなる。深呼吸をすると脈拍数が低下、気持ちを落ち着かせる。
ストレス解消につながる環境となる。
期せずして、タバコの煙を吸い込むことがそのような呼吸法と同じ効果を与えている。
事実、喫煙時の脈拍数低下を示すデータは多い。
・ニコチンの2つの作用
1. ニコチンは本来、自律神経の副交感神経を刺激し、その結果、リンパ球増やす。
2. そしてさらに、脳神経細胞に直接作用し、ドーパミン、セロトニンの分泌を促す。
このことは、自律神経の副交感神経をさらに優位とし、その結果、脈拍数を減少させる役目を持つ。
さらに厳密に言えば、ニコチンの単独作用ではないが、タバコを一服する際の呼吸法から脈拍数の減少もある。
健康を維持していく上での方法論を一元的に考えてはならない。
あらゆる事柄に光と影があり、また木だけで物事を見てはいけない。
同時に森で見ることが重要。
・なぜ体を動かすことが必要なのか
基本的に人間は身体を動かさないと、体だけではなく、頭も働かなくなるものである。
身体を動かさず、頭だけ使っていると、どうしても発想がゆがむ。
昔の人はそれを知っていて、文武両道と言った。
医者も体を動かさずに勉強一筋で大学を出て、診察室で患者さんを診るだけの生活を続けていれば自然の感覚が分からなくなってくる。
医学的知識を全部本だけで勉強しているとすぐに薬や手術にばかり頼る傾向になってしまう。
本、すなわち活字の上をさらにそれを超えたとしても、試験管の中で、また遺伝子操作でやることしか分からなくなってくる。それが、現代医療に与えているひずみなのである。
身体を動かさないで、自然の法則を知ろうというのは、無理な話である。
昔の人は、体を動かすことが、健全な精神のためにも絶対必要であることを知っていた。
読み書き、算盤をしたら、それだけでなく剣道や弓道もということで文武両道と言ったのである。
動物は、筋肉を使わないと健康を保てないようにできており、運動は免疫力を高める。
筋肉を使うと確実に発熱が起こり、体温が上昇し、血流が良くなる。
血流によって、酸素や栄養素を運び、老廃物を捨てることができる。
ところが現代の仕事はデスクワークが中心で当然、筋肉を使うことが少ない。
昔は、田畑で農作業を始め、日常的に体を動かす労働が当たり前であった。
家事でも、まき割りから炊事、洗濯まで体を動かして働かなければならなかったことから運動不足はまず考えられなかった。
運動不足が問題になったのは、戦後のある時期からのことで仕事だけでなく、家事も楽になり、日常的に体を動かさなくなったことで発熱が起こらず、血流障害の日常化。
仕事に追われ、長時間労働、睡眠不足、週一回のゴルフは身体を動かしていることにはならない。
疲れが残る、手足が冷たく感じた時にはすでに血流障害である。
化学的エビデンスで物事を判断するより、格言と基礎医学に学ぶほうが良い。
・その他の格言
早起きは3文の得
太陽の入らない家には医者が来る
あなたの食事の4分の1は自分のために4分の3は医者のために食べている
断食はメスを使わない手術である
病気は断食と祈りで治しなさい
食事が間違っている時、薬を使う意味がない
食事が正しい時、薬は必要ない
欲深き人の心を降る雪は、強るにつれて道を忘れる
患者は苦によって、心を悩し、楽によって心を汚す
●第1回 『ガンにならない生き方』
●第2回 『ガンにならない生き方』
●佐藤先生を囲んでの座談会