2012.5.20.(日) 15:00~16:00
@六本木グランドハイアット東京
第1部 2Fアニス
高輪メディカルクリニック院長
医学博士 久保 明先生
テーマ『からだの不思議 むくみについて』
◆肥満の原因
健康に気を使って菜食で玄米を食べて、糖質も控え運動もしているのに体重が減らない人がいる一方で、タバコを吸い、食べたいものを食べたい時に食べていて運動もしないのに太らない人がいるのはなぜかという問いに対する疑問を解く論文が先月、世界的な雑誌で紹介され、同じ運動をしても痩せる人と痩せない人がいるのは、骨格筋が、甲状腺と同じようにホルモンを分泌する内分泌臓器であり、筋肉は弱い、付かない人は筋肉から分泌されるホルモンであるミオカインの一つであるイリシンが分泌されていない、または異常があることが考えられるということが分かった。
また認知症に対して神経細胞が再生するように作用するBDMFも筋肉から分泌されることが分かっている。
運動をするとイリシンという物質が分泌され、体の中にある脂肪細胞、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、脂肪肝のような異所性脂肪に対して、エネルギーを蓄える脂肪細胞を、エネルギーを消費するタイプの脂肪に変化させる作用があり、これがうまく出ていれば、無駄なく痩せることが可能である。
外国ではイリシンの血中濃度を測ることが可能だが、日本はまだ遅れをとっているのが現状である。
◆生活習慣と糖尿病
ネーチャーレビューという雑誌が、生活習慣の悪い人が糖尿病にならないのはなぜかという疑問に答える論文を発表し、少量の毒を与えることによって免疫力を高めるホルミシスという現象が起こっているのではないかという可能性を示した。
これはラジウム温泉などのように、微量または適量の放射線を与えるとガンが改善するなどの効果があることと同じ現象であり、生活習慣が悪い状態がうまくホルミシスを働かせることによって糖尿病の罹患率が減少する可能性がある。
◆むくみと肥満
浮腫(むくみ)と肥満は別物であり、分けなければならないため、その簡単な検査法として、弁慶の泣き所の内側の一番硬いところを2本または3本の指で5秒くらい押すというものがあり、これによって太っていなくてもむくんでいる人もいることを知ることができる。
浮腫の原因を考えるのは主に、左が心臓、右が腎臓などを考え、心臓に対しては「最近同じ近所に行く時に息切れしませんか?」「最近坂を上る時につらくありませんか?」といった質問、腎臓に対しては「最近、尿量が減っていませんか?」といった問いかけをすることで判断することができ、それらに該当しない場合は内分泌を考え、生理前はむくむといった女性は多いことから、生理周期を確認しエストロゲンやプロゲステロンの関連を示唆する。
その他甲状腺機能も原因となることがあり、手が震える、動悸、徐脈といった徴候がみられるかを聞く必要があり、栄養の面では、低たんぱくも考えられる。
いずれも無ければ局所性の浮腫を考え、特に問題になるのは乳がん治療後の上肢のむくみで、この場合は飲み薬では局所に効かせることは難しく、エステ施術が有効である。
また、特に原因のない中年の女性に多い特発性浮腫もある。
漢方薬の中にもむくみを起こすものがあり、漢方だから安全という考えは持たない方が良い。
◆肥満と老化は炎症が原因である
食欲は頭で感じ、視庄や視床下部で食欲を促進または抑制するホルモンが複数出て調節されているが、脳の視床下部に炎症が起きていることが肥満の原因である。肥満の人は自分の脂肪細胞でも炎症が起こっており、白血球特にモノサイトやマクロファージが脂肪細胞に食い込んでいる状態だと言われている。
現在では、血管をはじめ様々な器官で炎症が起こることが老化であるとも言われており、炎症を抑えることが老化を防ぐ対策として、炎症や血液の凝固を抑えるアスピリンを、寿命を延ばすことを目的として服用する人もいる。
バイオマテリアルという雑誌では、マウスにC60という化合物を食べさせるとマウスの寿命が延びたという研究結果が出ており、これも炎症を抑えたことによるものではないかと言われている。
◆長寿と遺伝子
長寿の遺伝子は一つではなく5つほどあると言われており、その中で染色体の末端にあるテロメアの長さを測ることが可能であり、大体の寿命を知ることができる。
また遺伝子は親の要素だけでなく、微妙な塩基配列の変化があるため、心筋梗塞の人の塩基配列と自分のものを比べることによって罹患率が分かり、生活習慣にフィードバックすることができる。
長寿に関わる物質である女性ホルモンやアディポネクチン、善玉コレステロールは同年代の男性に比べて女性の方が明らかに高いが、副腎から出るDHEAというホルモンは男性の方が多い。
◆体内時計と病気
体内時計は頭だけではなく肝臓、心臓、骨髄にもあり、その中でメインになるものがビーマール1であり、転写因子としてDNAからRNAに情報を転写し、たんぱく質合成することで自律神経に作用して血圧、体温調節などに関わり、病気ではリウマチ、喘息、心筋梗塞に関わる。
喘息などで決まった時間に発作が起こることも、体内時計によって自律神経のバランスが変化することによるものであると言える。
◆ロコモティブシンドローム
運動不足は死亡率が高くなり、
むくむ高齢者の中で運動量が極端に減っている状態をロコモティブシンドロームと呼び、これからの日本の国民病の一つになると言われている。
これは骨、筋肉、関節にそれぞれに何かしらの障害を持っている状態で、その中で筋肉に対しては様々な原因によって筋肉や筋力が減少していくことをサルコペニアと呼び、筋肉の減少はミオカインの分泌量も低下させる可能性があると共に、運動不足は認知症の発生率を高めることが分かっている。
関節では変形性の関節症が挙げられる。一つの検査法としてつま先歩きと踵歩きをさせることによって第4腰髄から第2仙髄の神経の働きが正常であるかをみることができ、原因が腰にあるのではないかと推察できる。
骨に対しては骨粗鬆症が挙げられる。治療が進歩し、単にカルシウムやビタミンDを摂取するといったものではなくなってきていると共に、一カ月に一回の服用で済む薬も開発されている。
◆施術者の心構え
人の体を触ることは非常に責任があり、常に勉強を忘れずに観察力を高め、自信を持って触れることができるようにならなければならず、謙虚に新しい情報に耳を傾ける必要がある。
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